【マンガで学ぶ】「1社に30億も注ぎ込むバカがいるかよ!」集中投資は暴挙なのか?英断なのか?『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。 第3回は30億円の一点投資に踏み切ろうとする主人公の暴走気味な行動を、ウォーレン・バフェットの名言を手掛かりに考察していく。

「1割減るとちょっと心が痛い」が目安

「道塾学園」の「投資部」に加わった主人公・財前孝史は、主将(キャプテン)の神代圭介からいきなり「100億円を運用しろ」と指示される。「勉強してから」と尻込みする財前の言葉を、神代は「投資は習うより慣れろ」だと一刀両断。その「暴論」に呼応するかのように、一夜明けた投資デビューで財前はあるゲーム会社の株式に一気に30億円を投じる。

 未経験者が投資を敬遠するありがちな理由は「よくわからない」だろう。時間ができたら、ちゃんと勉強してから、きちんと取り組もう。その姿勢は間違っていないし、何もわからないまま極端なリスクをとれば取り返しのつかない大けがを負いかねない。

 半面、「勉強してから」は格好の先延ばしの理由にもなる。お金の管理や金融機関の手続き、資産運用の基礎を学ぶのは、多くの人にとって面倒で苦痛だろう。

 だから、神代の言う「習うより慣れろ」もひとつの真実だ。数千円でも良いから、積立投資を始めて、少額でも自分のお金が日々増減するのを見れば、投資やマーケットの手触りがわかる。投資や経済を学ぶモチベーションも高まる。

 私のオススメは「1割減ったら、ちょっと心が痛い」規模でインデックス投信を買うこと。「心の揺れ」という極めて重要なファクターの経験値を上げられる。

数兆円ファンドマネージャーの重圧

 とはいえ、いきなり1銘柄に30億円は、むちゃだ。むちゃなのだが、この財前の大勝負に至る流れは、投資の神髄に迫る含みがある。

「投資にルールなんてない」「安く買って高く売る これしかない」。投資をギャンブルと言い切る神代は「投資は遊び!ゲーム!マネーゲームさ!」と露悪的な言葉を財前にぶつけた後、「ゲームと思わなきゃ 3000億円も動かせないんだよ」と達観したように語る。

 十数年前、数兆円規模の投資信託の運用を預かるファンドマネジャーを取材した際、オフレコで「お客様から預かった大事なお金だけど、極力、ただの数字だと考えるようにしています」と打ち明けてくれた。自分の判断で日々、数百億円単位で「お金」が増減する。リアルに捉えていては神経が持たないし、「心の揺れ」で投資判断がゆがみかねないという。

 神代から投資をゲームと割り切るマインドセットを学んだ財前は、ソーシャルゲーム「ゲーキチ」の株式を30億円買う。副主将の渡辺信隆がゲーキチを「ロクなゲーム作ってないだろ!」とこき下ろすと、財前は「いや……絶対に面白いんです」「みんなが、まだそれをわかってないだけです」と跳ね返す。

 100億円のうち30億円を集中投資する暴挙に、渡辺は「1社に30億も注ぎ込むバカがいるかよ!」と反発。1銘柄への投資は5%程度が上限という分散投資の鉄則を唱える。たしかに、業種も散らして20~30銘柄に分散すれば、ポートフォリオ全体のリスクは確実に下がる。その分散投資の究極形が「市場全体を買う」インデックス投資で、これが現代では「王道」とされる。

 一方で、投資の神様と称されるウォーレン・バフェット氏はアップルなどへの集中投資ですさまじいパフォーマンスを達成してきたのも事実。バフェット氏いわく、「分散投資は、リスクヘッジではなく、『無知に対するヘッジ』だ」。これは希代の投資家だからこそ言える言葉だろうが、「投資を楽しむ」という視点で考えても、ちょっとした「偏り」を持たせてみるのは一法だ。うまくいっても、いかなくても、「なぜ」と考える機会が持てる。

 分散投資を「面倒臭いな」と言い切ってみせる財前には大物の雰囲気が漂う。

 さて、デビューの行方や、いかに。