米国「景気後退なきインフレ沈静化」シナリオの可能性上昇、その時の投資戦略は?Photo:PIXTA

パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は「もはやリセッション(景気後退)を予想していない」と語った。この見方には、警戒すべきリスク要因がある一方、市場がそれをコンセンサスとして相場形成する時間的猶予ももたらし得る。このため、これまでよりポジティブな投資戦術・戦略を組む妙味があろう。米株サマーラリー一服での相場の夏ダレは、それ自体が秋相場へつながるか、じっくり思いを巡らす一時になるだろう。(楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー TTR代表 田中泰輔)

「もはやリセッションはない」と
断言するパウエルFRB議長

 パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、7月26日、「FRBのスタッフはもはやリセッション(景気後退)を予想していない」と語った。FOMC(米連邦公開市場委員会)で0.25%の追加利上げを決めた後の記者会見での発言だ。

 筆者が第一に感じたのは、「そこまで言うか」である。景気の先行きについて楽観が浮上していることにはうなずける。しかし、警戒すべきリスク要因は、しばし鳴りを潜めていても、まだまだくすぶっている。

 第二に、「FRBのスタッフは…」の部分が少々引っかかった。バーナンキ元FRB議長、イエレン前FRB議長、あるいは植田日銀総裁なら、自らトップ級の経済学者、経済・金融分析を専門とする者として、こうは言わないだろう。

 パウエル議長は弁護士出身であり、経済分析を専門としていないことは、かねて指摘されるところだが、FRBは経済専門スタッフを多数抱えており、その点は問題にはならないはずだ。

 ただし、コロナ禍という異常事態からの経済情勢は、スタッフにとっても未体験ゾーンである。分析技能を持たない金融政策運営の責任者から、景気やインフレの先行きについて、「その見方で大丈夫だな」と念押しするように問われたら、スタッフは、曖昧さを抑え、自分なりの見方を強調するだろう。

 パウエル議長はコロナ禍以降、経済とインフレの見方を変転させてきた。2021年にはインフレは一時的と強調し、景気支援姿勢を貫いた。22年にはタカ派に急変し、劇的な利上げに走った。

 23年初めには、景気が堅調なままディスインフレの兆しありと、安どと自信を見せた。それが、3月金融危機で利上げの累積効果を警戒した。6月には年内2回の利上げ必至と切り返し、7月にはもはやリセッションはない…と景気の軟着陸に自信あり気になった。

 コロナ禍という未体験の事態に際して、FRB当局は見方を切り替えながら、是々非々対応せざるを得なかった。このことを批判するつもりはない。むしろ、市場の多くがFRBと一緒に試行錯誤し、FRB見通しをコンセンサス形成の軸としてきたので、批判できる立場にもない。

 しかし、パウエル議長の発言切り替えの明暗コントラストが、どうにも強すぎないかということは、その都度感じてきたところである。

 3~6カ月もすれば、また見方を切り替えている可能性を排除できないと感じているし、実際検討すべきリスク要因は、今もそこかしこにある。