ユニクロPhoto by Nami Shitamoto

注目度の高い業界や企業の最新決算を分析する『最新決算 プロの目』。今回はユニクロを展開するファーストリテイリングを取り上げる。同社の柳井正会長兼社長は4月に「5年で売上高5兆円を目指す」と宣言。海外事業が牽引(けんいん)し、目標に向けて着々と業績を積み上げているものの、株価は高低を繰り返す。なぜか。JPモルガン証券株式調査部・村田大郎シニアアナリストにその理由をひもといてもらった。(ダイヤモンド編集部 下本菜実)

第3四半期の営業利益は前年比21.9%増
グレーターチャイナのユニクロ事業が牽引

 ユニクロを展開するファーストリテイリングは、世界的なトップアパレル企業で高成長を続けているにもかかわらず、その株価は乱高下している。

 2023年のファストリの株価は、1月16日に終値ベースの年初来安値(2万4017円)を付けた後、6月16日には今年の高値となる3万7210円まで上昇。一方で直近は好決算だったにもかかわらず、8月下旬時点では3万3000円前後で推移するなど足元の勢いは芳しくない。

「特殊銘柄」。JPモルガン証券株式調査部・シニアアナリストの村田大郎氏は、ファストリ株の特徴を、このように言い切る。通常は好業績が続けば、株価も上昇基調をたどる。しかし、この銘柄にはその“法則”が、他の企業と同様には当てはまらないのだ。

 そもそも、ファストリの業績は好調が続いている。23年8月期の第3四半期決算では、同社の売上高は前年同期比21.4%増の2兆1435億円となり、営業利益は21.9%増の3305億円となった。営業利益は、第3四半期としては過去最高を記録した。

 村田氏は「小売業界はおおむね好調で、ファストリだけが突出しているわけではない」と前置きしつつ、「(同社の)海外事業の伸びは想定以上」と話す。

 その海外事業を見ると、売上高は30.5%増の1兆976億円で、営業利益は38.6%増の1841億円といずれも極めて高い伸びを見せた。特に貢献度が高かったエリアがグレーターチャイナ(中国、香港、台湾)。同エリアの売上高は4763億円となり、エリア別で日本の売上高7097億円に次ぐ規模だった。

「海外ユニクロ事業では強い業績の伸びに加え、在庫の適正化が進み、さらに健全な状況になった」(村田氏)。同事業の営業利益率は前年度第3四半期の13%から、17.9%まで上昇した。

 一方の国内事業。売上高は前年同期比10.7%増の7097億円だったものの、営業利益は996億円と3%減った。営業利益の下振れの要因は円安だ。さらに、給与水準の引き上げによる人件費の上昇も利益を圧迫した。

「追加生産分でのスポット為替レートが想定以上の円安で原価率が上がったうえ、在庫の適正化の影響もあり、粗利(売上総利益)が1.7%下がった。これは想定外だった。ただし、海外事業とGU事業が好調だったため、全体としてはポジティブな着地になった」(村田氏)

 海外事業が牽引し、堅調な業績をたたき出すファストリだが、冒頭に挙げたように株価はアップダウンが続く。次ページでは、村田氏が同社の株価の変動要因を解説する。また、ファストリとは対照的に業績は低迷しているものの、有望投資先と考えられる “優良”小売り銘柄も明らかにする。