新興国企業を甘くみていると、
足元をすくわれる

小林:ただ、同じような業種で将来ライバルになる状況を見越すと、まだ初歩的な段階にある新興国企業に、できれば「資本」を入れて技術供与することは大事だと思うのです。

 たとえば、タイヤ大手のミシュランは非常に早くから中国市場に着目し、中国タイヤメーカーと共に合弁会社を設立、「回力」などのブランドで、いわば親戚会社にミドル・ローエンドを攻略させる戦略をとっているようです。ゴビンダラジャン流のリバース・イノベーションを合弁という形態で先手を打っているのですが、先進国企業もこういうしたたかさが必要でしょう。

太田:日本企業を見ると、ハイエンドで待つ戦略で成功している例は非常に少ないですね。ダイキンも当初は高級エアコンをターゲットとしたものの、それだけでは難しいので今のような判断になったのだと思います。

 新興国100社のようなチャレンジャー企業と、どの段階で手を組むか、競争するかを考えることが重要で、甘く見ていると、いつの間にか追い越されているかもしれません。たとえば、中国のICT企業のファーウェイは今でこそ有名になりましたが、5年前はほとんど無名でした。それがぐんぐん成長し、今ではシスコシステムズが青ざめるほどの巨大企業になっています。

 香港の小型モーター会社のジョンソンエレクトリックも、日本の代表的企業であるマブチモーターを脅かす存在になっています。ジョンソンもファーウェイも、M&Aなどのスピード経営を得意としています。本社の事業開発チームには、欧米での教育やビジネス経験のある人材が揃っているので、M&AにしてもM&A後の統合マネジメントにしても非常によく訓練されています。新興国は遅れているというイメージを持っていると、全く違うわけです。

小林:なるほど。地元から叩き上げで伸びてきた企業もあるかもしれませんが、近代的マネジメントを持ちこんで、スピード感がさらに速まっているのでしょうね。そういう面では、逆の視点を持つことで先進国の人々にもチャンスが生まれて来そうですね(現地の人との協力は不可欠ですが)。

 次回は、日本企業の課題や対応について伺ってみたいと思います(次回は、2013年3月14日の公開を予定しています)。
 


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◆主要目次
【第1部】 リバース・イノベーションへの旅
  第1章 未来は自国から遠く離れた所にある
  第2章 リバース・イノベーションの5つの道
  第3章 マインドセットを転換する
  第4章 マネジメント・モデルを変えよ
【第2部】 リバース・イノベーションの挑戦者たち
  第5章 中国で小さな敵に翻弄されたロジテック
  第6章 P&Gらしからぬ方法で新興国市場を攻略する
  第7章 EMCのリバース・イノベーター育成戦略
  第8章 ディアのプライドを捨てた雪辱戦
  第9章 ハーマンが挑んだ技術重視の企業文化の壁
  第10章 インドで生まれて世界に広がったGEヘルスケアの携帯型心電計
  第11章 新製品提案の固定観念を変えたペプシコ
  第12章 先進国に一石を投じるパートナーズ・イン・ヘルスの医療モデル
  終章 必要なのは行動すること
  付録 リバース・イノベーションの実践ツール
       ネクスト・プラクティスを求めて