給与収入だけで老後資金をまかなえるのか不安に思う人が増えている。多くの人にとって「投資」が避けて通れない時代になってきた。資産を増やすという点で大きな選択肢の1つになるのが株式投資だ。「株投資をはじめたいけど、どうしたらいいのか?」。そんな方に参考になる書籍『株の投資大全ーー成長株をどう見極め、いつ買ったらいいのか』(小泉秀希著、ひふみ株式戦略部監修)が発刊された。「ひふみ投信」の創始者、藤野英人氏率いる投資のプロ集団「ひふみ株式戦略部」が全面監修した初の本。株で資産をつくるためには、何をどうすればいいのか? 本連載の特別編として、著者の小泉氏による書き下ろし記事の第10回をお届けする。今後の資産形成の参考にしていただきたい。

【新NISAを100%活かす投資術 第10回】成長投資枠で10倍狙いの個別株に投資しよう!Photo: Adobe Stock

身近なところから10倍株、100倍株がたくさん出ている

 今回のタイトルを見て、「株式投資の本にありがちな安易なタイトルだ」と思われた方も多いかもしれない。しかし、この度の10回におよぶ連載で、私が最も主張したいことはこのことだ。

 個別株の場合、株価が10倍、20倍、あるいは100倍、200倍になるケースもある。身近な例では、任天堂、ユニクロのファーストリテイリング、ドン・キホーテのPPIH、セブンイレブン(現・セブンアンドアイHD)、ヤフー(現・LINEヤフー)などはいずれも株価が200倍以上に成長した。それらのサービスや製品が一般的に広まる初期段階で投資していれば、株価が何十倍にもなる恩恵を受けられた。

 私の個人的な体験でいうと、コシダカという会社がカーブスという体操教室を始めた時にその会社の株に投資した。今までのスポーツクラブとは違い、中高年女性を対象に低額で短時間で気軽に通える体操教室であり、「なんと面白いビジネスを始めたんだ!」と感心した。その後、その株価は100倍以上になった。

 アークランドサービスという会社が、「かつや」というとんかつ屋を始めた時も、おいしいとんかつ定食が600円程度で食べられることに感動して投資した。その後株価は50倍以上になった。

 神戸物産という会社が「業務スーパー」を全国展開し始めた時にも投資し、その会社の株価は100倍以上になった。

ただし、保有し続けることはなかなか難しい…

 こうした例は挙げればきりがない。

 しかし、残念なことを告白しなければならない。実は、私はこれらの銘柄を初期段階に買っていながら、いずれも3倍とか5倍程度の上昇で売ってしまったのだ。そして、その後、さらに何十倍にも上昇する動きを指をくわえて見ていた。

 それらの投資で資産は大きく増えたが、「とんでもない優良資産を保有していながら、どうして手放してしまったのか」という後悔の方が大きい。

 個人的に、株式投資からは大きな恩恵を受けてきた。自由に株式投資ができる時代に生きられて本当にラッキーだと思っているし、このような時代を築いてくれた先人たちに感謝するしかない。

 しかし、株式投資の本当の威力は、まだ十分に享受できていないのではないかという想いの方が強い。

株式投資は、リスクとリターンが非対称的なゲームだ

 もちろん、「売って良かった」ということが多いことも事実だ。

 期待通りに成長してくれず、低迷してしまう企業もある。しかし、そんなことに比較にならないくらい、大きな魚を逃したことの後悔の方が大きい。

 なぜならば、個別株の投資では、失敗しても投資金額以内しか損をしない。その一方、上手くいく場合には10倍にも100倍にもなる可能性があるのだ。

 たとえば、10万円投資した場合、損をしても数万円程度だ(10万円が0円になるということは、滅多にない)。

 一方、それが100万円にも1000万円にもなる可能性がある。個別株投資においては、リスクとリターンは非対称的なのだ。

 10万円投資をして、0円になるかもしれないけど、100万円になる可能性もある、というケースなら十分に投資する価値はある。

 1銘柄に集中投資するのはあまりにもリスクが高いが、いろいろな銘柄に少しずつ投資すればリスクは十分に分散できる。何銘柄かでうまくいかなくても、何銘柄かが10倍とか100倍になれば、それは十分すぎる成果となる。

 個別株を調べて投資することは手間がかかるが、とても勉強になることだし、実際に自分の投資した株が大きく成長してくれれば、それは何よりも楽しいことだ。

長期投資で大きな成長を捉える2つのポイント

 実は、私自身の投資で、株以外の投資(諸事情で具体的なことは書けないが)では、保有し続けたまま100倍近くになっているものがある。

 それは、投資するときには時間をかけて調べたが、専門外のものでもあり、分散投資の意味で資産の一部を投じたものなので、その後は一切手をつけずに放置してきた。

 そして、気づいた時には100倍近くになり現在に至っている。皮肉なことに、日々熱心に見ている株式ではなく、リスク分散の意味で気軽に投資して放置していたものが、最も大きな成果を上げる結果となっている。

 ここで学ぶべきポイントは、
 ①投資するときはできる限り、よく調べてよく検討する
 ②投資したら忘れる

 ということだ。

 ①はまじめな人なら可能だ。
 しかし、価格変動が日々目に入る株などの場合、②は意外と難しい。特に、それにのめり込んで一所懸命にやっている人は。

 ではどうしたらいいかというと、「NISA口座を使って少しずつ投資していく」というのが有効な手段だと思う。

 NISA口座は、もともと長期投資をするように設計されている仕組みだ。NISA口座で少しずつ買えば、最初から長期投資の覚悟がしやすいし、頻繁に株価を見るほど気にならずに済むだろう。

 少しずつ買うという点では、SBI証券の「S株」や楽天証券の「かぶミニ」のように、通常より少額で投資できるサービスも便利だ。

 1つの銘柄を買うにも、一度に買うのではなくて、資金を2~3回に分散するのがいい。たとえば、10万円買おうとする場合、まずは5万円分を買って様子を見る。その後、もし大きく下がるようなことがあれば、もう一度調べ直して、将来性に対する見方に変わりがないなら残りの5万円を投資する。こうしたスタンスを投資すれば、株価が下落しても、慌てることなくゆったり冷静に対処できる。

 もし個別株への投資に少しでも興味があれば、成長投資枠を使って、以上のような個別株投資に取り組んでみることをお勧めしたい。

(※本稿は、書き下ろし記事です)

小泉秀希(こいずみ・ひでき)
株式・金融ライター
東京大学卒業後、日興證券(現在のSMBC日興証券)などを経て、1999年より株式・金融ライターに。マネー雑誌『ダイヤモンドZAi』には創刊時から携わり、特集記事や「名投資家に学ぶ株の鉄則!」などの連載を長年担当。『たった7日で株とチャートの達人になる!』『めちゃくちゃ売れてる株の雑誌ザイが作った「株」入門』ほか、株式投資関連の書籍の執筆・編集を多数手がけ、その累計部数は100万部以上に。また、自らも個人投資家として熱心に投資に取り組んでいる。市民講座や社会人向けの株式投資講座などでの講演も多数。
ひふみ株式戦略部
投資信託ひふみシリーズのファンド運用を担うレオス・キャピタルワークスのメンバーにより構成された本書監修プロジェクトチーム。
ひふみ投信:https://hifumi.rheos.jp/