お手上げのビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

「英語が話せるようになるには英語で考えることが必要」と言われるが、このアドバイスは誤解を招きやすい。その理由は、「帰国子女は和文英訳が苦手」という事実をひもとくと分かる。(パタプライングリッシュ教材開発者 松尾光治)

帰国子女は「和文英訳」が苦手なワケ

 意外に思うかもしれないが、帰国子女の多くは「和文英訳」が苦手だ。

「帰国子女」とひとくくりにするのは乱暴なので、ここでは臨界期(※)以前に日本国外で感覚的に英語を体得して使えるようになった人としよう。

※第二言語をネイティブ並みに習得することができる年齢の上限。おおむね10才~15才の範囲(諸説あり)

 典型的な例はこうだ。帰国後、日本の英語の授業を受けるも「文法」が何のことか分からない。それでもテストは勉強せずに楽勝。ただし100点が取れることはなく、良くて80点程度。特にいつも不正解なのが和文英訳。そして、「英語ができる」とされるクラスメートたちが、和文英訳にほぼ全く同じ英文で解答し、それが模範とされているのを見て、何ともいえない複雑な気持ちになる――。

 日本の学校の和文英訳問題は、テスト範囲の単元で学んだ文法事項を使った「たった一つしかない正解」を求めるものだ。日本語訳を基に、それに対応するとされる教科書に出てきた英文を思い出す作業に近い。授業数に制限のある中で一律に外国語を学ばせるためには、やむを得ないことなのだろう。

 一方、感覚的に英語を体得した帰国子女は、文法を意識しながら英文を作ることができない。例えば、「彼は野球がとても上手です」という和文英訳問題があったとしよう。「正解」とされるのは、たいてい次のどちらかとなるだろう。

He can play baseball very well.
He is good at playing baseball.

 だが、この問題を見た帰国子女は、「よーし!最近習ったcanやbe good at ~ingを使うんだな!」といった発想がない。代わりに、スライディングキャッチのようなファインプレーをしたり、ここぞというところで必ずホームランを打ったりする名選手の姿を思い浮かべるだろう。

 そんな「イメージ」を起点にして、例えば次のような英文を瞬時に思いつく。

He’s a great baseball player.
He’s a fantastic ball player.

He plays baseball like Shohei Ohtani.

He’s the LeBron James of baseball.
※レブロン・ジェームズは米プロバスケットボールNBAのスター選手

 そして、テストでは「不正解」となるわけだ。

 さて、本題だ。英語に堪能な帰国子女であっても、「英語で考えて」いるわけではない。「イメージ→口から英語が出る」という一瞬のプロセスで英語を話しているのだ。