難しい数式や記号並びがちな統計学。一般のビジネスマンにはとっつきにくい学問の1つだが、使いこなせれば、あらゆる分野で通用する強力な“武器”となる。統計家の西内啓氏と駒澤大学経済学部准教授の飯田泰之氏が、統計学が“最強”である理由について語り合う。
飯田 西内さんは医学部のご出身ですが、統計学はどこで学ばれたのですか。
西内 医学部の中でも、公衆衛生学が専門でしたので、統計学は最初に学んだんです。公衆衛生学は原因を突き詰めた後、人々がどのように行動するのか、また、社会構造を変えられるのかといった、ありとあらゆるものが対象になります。経済学を含めた、社会科学全般について、博士課程で学びました。
飯田 なるほど。特に公衆衛生学とか疫学はまさに、統計学の生みの親みたいなものですからね。
西内 疫学とは原因不明の疫病を防止するための学問ですが、その最初の研究が19世紀のロンドンではやったコレラです。当時のロンドン中の医師や科学者、役人が対策を繰り出すのですが、どれも効果がない。そんな中でジョン・スノウという外科医はコレラで亡くなった人の生活状況について調べまくって、同じような状況下でコレラにかかった人とかかっていない人の違いを比べました。
飯田 疫学では、食品摂取などの要因と発症の有無を「四分割表」でクロス分析するのが基本ですが、その最初の例ですね。
西内 スノウの分析では、水道会社Aを利用している家が水道会社Bを利用する家より8.5倍も死亡者が多かったので「とりあえずAの水は使うな、以上」という解決策を打ち出しました。その結果、何十万人もの命が救われました。
統計学は、データの解析結果に基づき、どんな権威やロジックも吹き飛ばして最善の判断を下す。だから私は「統計学は最強の学問である」と思っています。