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マーケットで成功するための投資の心理学

人は統計的な発想が苦手だ

林 康史 [立正大学経済学部教授]
【第5回】 2007年12月11日
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 前回は認知的不協和について述べた。繰り返しになるが、人はすでに認知(理解)していることに馴染まない情報を入手した場合、緊張や不快が生じる。その嫌な感じを回避しようとして、自分に馴染まない事象に対して拒絶しがちだったりする。例えば、喫煙者にとって、タバコを吸うという嗜好と癌になりやすいという不利益な情報は、不協和の関係にあり、認知的不協和を緩和(低減)させたいとのバイアスが働く(※1)。

(※1)フェスティンガーの実験は、タバコを吸うと癌になるかを問うというアンケート調査に基づいたものだった。ちなみに1950年代は、医学的には喫煙の習慣と癌の因果関係は実証されてはいないが、ほとんどの人が経験的に知っているという状態だった。

 ごくごく簡単にいえば、人は、嫌なことは聞きたくないという傾向にあり、それによる判断ミスを防ぐ対策は、自分をごまかさないことだ――と書いたところ、読者から「自分のことを責められているように感じた」という感想をもらった。もちろん、そんな意図は私にはないし、そもそも、その読者は、認知的不協和を感じ、しかし、「嫌なことは聞きたくない」という不協和低減の方法を意識的にもまたは無意識にもとらなかったわけだから、「自分をごまかさない」という対策に対する準備はできているということになる。他にももしそう感じた読者がいたとすれば、過度の心配は不要だろう。

 閑話休題。

“タクシー問題”からわかること

 しかしながら、「自分をごまかさない」だけでは十分ではない。というのも、認知的不協和がなくても、人は、人の話を聞いていないということは多いからだ。以下は、タクシー問題と呼ばれるものである。よく考えてから答えていただきたい。

【問題】

 ある街では、(緑色タクシー会社と青色タクシー会社の2社しかなく)タクシーの総数のうち85%が緑色の車体、15%が青色の車体である。あるとき、その街のタクシーによるひき逃げ事件が発生した。目撃者の証言によると「犯人のタクシーは青色」。その証言がどのくらい正確かを事故のときと同じような状況下でテストしたところ、80%の確率で正しく色を識別できるが、20%の確率で実際とは逆の色を言ってしまうことがわかった。証言通り、青タクシーが犯人である確率はいくらか?

 「よく考えてから答えていただきたい」と書いたので、正解者が多いことを期待したいが、直感で答えると多くの人が間違えるという。

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林 康史 [立正大学経済学部教授]

大阪大学法学部卒。東京大学法学修士。メーカー・生命保険・証券投資信託・銀行で、海外営業・外国為替ディーラー・ストラテジストなどを経験した後、2005年4月から現職。投資の心理に関する著訳書多数。最新刊に、『決定版 株価・為替が読めるチャート分析』(日経ビジネス人文庫)、『バリュー投資』(日経BP社)。立正大学経済学部では、「投資入門(テクニカル分析とシステム入門)」をテーマとする公開講座を開催します(4/14、4/21、4/28。受講料は無料)。講師は林康史氏。問い合わせ先:立正大学経済学部 TEL: 03-3492-7529 E-mailメール: eco@ris.ac.jp


マーケットで成功するための投資の心理学

長年金融の実務に携わってきた著者が、相場における成功や失敗の原因を、人間の心の働きと経済の関係を研究する行動経済学の立場から解き明かす。

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