人生の選択や行動に大きな影響を与える日本のアニメ

 日本のアニメは、日本人のみならず外国人の人生の選択や行動に大きな影響を与えている。たとえば、中国人留学生に日本を選んだ動機を尋ねると、「『名探偵コナン』に出てくる日本の名所に引かれたから」といったコメントが返ってくることがたびたびある。

 近年は日本の美大を志す中国人留学生が増えているが、その根底には「『ウルトラセブン』に衝撃を受けた」などの子どもの頃の原体験があったりする。王智龍さん(仮名)は日本の“怪獣文化”に深いメッセージ性や独特の思考を見いだし、アナログの特撮技術を学びたいと日本での滞在を決意したという。

 中国人留学生の中には、日本の福祉関係の大学に進学した劉英傑さん(仮名)もいた。京都アニメーションが制作するアニメ作品の熱狂的ファンだった劉さんは、2019年に起こった放火による全焼と多くの死者を出した“京アニ事件”に強いショックを受けた。そんな彼がたどり着いたのは、福祉の道だった。心身の不安定が犯罪に結び付かないことを願ってのことだった。

 冒頭で紹介したエリックさんについて言えば、『グレンダイザー』に陶酔した少年時代から月日は流れ、2011年に悲願かなって商用で東京を訪れた。「大人になったら絶対に日本に行く」と心に決めた訪日1日目に秋葉原へ直行し、『グレンダイザー』のフィギュアを探し回った。

能登地震で「アラブの人々」が悲しむ意外なワケ、被災地と世界をつなぐ“光”とは?『グレンダイザー』の熱狂的なファンのエリックさん(仮名、シリア出身)は2023年のトルコ・シリア大地震に今回の能登半島地震を重ねている(著者撮影)

 そして2024年。エリックさんはコロナ禍明けの訪日旅行を楽しみにしていた。もちろん、永井豪記念館はそのハイライトだった。しかし今はもうない。

 エリックさんは「永井豪氏にとっても、記念館にとっても、さらにはこの町や地元の人々にとっても大変なことが起きたことを知って心を痛めている。人々の生活が元に戻るには長い時間がかかるかもしれないが、町や記念館が再び力強く立ち上がることを祈りたい」と話していた。

 石川県輪島市は人口約2万3000人の小さな地方都市だ。その地方都市がアニメを通して世界にもつながっている。先が見えない不安の中でわずかな光があるとすれば、私たち日本人だけでなく、世界各地の永井豪ファンもまた被災地に思いを寄せてくれているということも、その一つではないだろうか。

【訂正】記事の初出時より以下の通り訂正します。
11段落目:『21世紀少年』→『20世紀少年』
(2024年1月13日12:07 ダイヤモンド編集部)