『学問のすすめ』は生涯学習や平等主義を説く本ではない。幕末・明治への転換期に書かれた、個と国家の変革を促す「革命の書」である。当時の日本は、今では想像を絶するほどの外圧を受け、植民地化される寸前だった。そうした中でも維新が成功した理由とは何か?日本史上最大の変革を支えた歴史的名著のメッセージを読み解く。

日本人は「悲観論」が大好き!?
当時も今も変わらない国民感情

『学問のすすめ』第4編の冒頭で、諭吉は当時(1870年代)世間に流布していた日本の将来に対するいくつかの悲観論を持ち出しています。

※以下、原文からの引用・抜粋はすべて岩波文庫版を底本に著者が現代語訳したものです。

(1)今後の日本の盛衰は、人間の知恵では明確に予想はできないが、このままいけば日本は将来国としての独立を失ってしまうのではないか。

(2)日本の自主独立が守り切れるかどうかは、20年~30年経ってみなければわからないのではないかと、疑問を持つ者もいる。

(3)ひどく日本を蔑視している外国人の説に流されて「日本が独立してやっていくのはとても無理だ」と悲観論に染まる者もいる。

 ごく最近の議論ではないかと勘違いしそうですが、上記の3点は現代日本で論じられていることを取り上げたのではなく、明治初期の書籍『学問のすすめ』からの抜粋です。しかし私たち現代日本人にも、あまりにも親近感がある「悲観論」ではないでしょうか。

「今、試しにイギリスに行き、英国の独立は今後保っていけるかと聞けば、人は皆笑って答えないだろう。それは人々が英国の独立は揺るがないものと信じているからだ。ならば日本も多少文明が進歩したと言っても、世間で悲観的な議論がされるのを見れば、結局のところ(日本の自主独立の維持に)まだ完全に疑いがなくなったわけではない」(『学問のすすめ』第4編から抜粋)

 140年前の明治初期であっても、彼らは私たち現代日本人のご先祖に当たる人たちなのですから、当然と言えばそうなのですが、ある種日本人の精神的傾向、あるいはメンタリティは変わらないものがあると痛感させられます。その上で、自国の自主独立が不安定だと感じる環境も、現代日本と幕末明治には共通するものがあります。