TIBは建物の2階・3階のフロアを占める。広さは5500平方メートル。イベントスペースやさまざまな会議室、スタートアップの製品やサービスを展示できる空間もある

 そもそも都が策定したスタートアップ戦略の背景には、世界的なイノベーションの潮流から立ち遅れている日本の危機感がある。日本のスタートアップ数は米国の120分の1しかなく、アジアのランキングでも4位に陥落。変革への意欲や、それを応援する社会機運が育っていない。世界で日本が再び輝くためには、異次元のスタートアップ戦略が求められている。東京都が目指すのは、「10×10×10」のイノベーションビジョン。東京発ユニコーン数(グローバル)、東京の起業数(裾野拡大)、東京都の協働実践数(官民協働)を、それぞれ5年で10倍にするという計画だ。その計画を実行する拠点となるのがTIBなのだ。

 TIBのコンセプトは“NODE(ノード)”、イノベーションの“結節点”になるというものだ。そのコンセプトを具現化するため、グローバルに活躍するスタートアップを創出する「Global」、学生や若者の挑戦を応援し、成長を後押しする「Growth」、行政や大企業、大学などさまざまなプレーヤーとスタートアップとの協業を推進する「Collaboration」、人と人とをつなげるプラットフォームを構築する「Connect」という四つのキーワードを掲げている。

 また、TIBには、立ち上げ段階から東京都職員と一緒になってプロジェクトの企画運営に参画している「スターティングメンバー」がいる。TIBの「みんなで創る」のコンセプトの下、大企業や大学、VC(ベンチャーキャピタル)やアクセラレーターなど約30社が参画している。業界や分野にとらわれないイベントをTIBの空間を利用して開催しつつ、国内外のスタートアップ・イノベーション施設やコミュニティーとも連携し、スタートアップが必要とする支援をシームレスに展開していく予定だ。

日本のスタートアップエコシステムの
“玄関口”として機能

 ちなみにTIBのモデルとなったのは、フランスの「Station F」。同国では「SU(スタートアップ)の悩みの90%は、他のSUが解決策を知っている」を理念にStation Fという一大スタートアップ支援拠点を整備した。世界中から挑戦者が集まってスタートアップのエコシステムを形成し、短期間で多数のユニコーンを輩出したという実績がある。

 海外から見ると日本は、スタートアップの世界が分かりづらいといわれる。スタートアップの拠点が点在しているため、日本に来た海外の投資家が、日本のスタートアップに出合いたくても、誰が、どこにいるのか分からないのだ。そうした課題を解決するためにも、日本のスタートアップエコシステムの“玄関口”としてTIBを機能させていく。

 次ページからはTIBの開設にも参画した2人の有識者に、現在の日本が抱えるスタートアップの課題と、TIBにかける期待を聞く。まずは、世界的なイノベーションプラットフォームであるPlug and Play JapanでCMO(最高マーケティング責任者)を務めるスタートアップエコシステム協会 代表理事の藤本あゆみ氏。そして、スタートアップ支援で東京都と連携する東京大学の執行役・副学長であり、日本におけるスタートアップエコシステムの国際化、グローバル化促進に尽力する渡部俊也教授の2人だ。