「科学的に証明されている」と聞くと、わたしたちはそれを「現時点での最上級の信頼」に値するものだと受け取る。しかしその「科学的」の多くは再現性にかけ、さらには捏造によって作られたものだったとしたら?
実際に心理学、医学、経済学など幅広いジャンルで、過去の研究の再現に失敗する事例が多数報告されている。これら「科学の信頼性」を根底から揺るがしかねない「再現性の危機を扱った本『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』が現在、大きな話題となっている。そこで、その原著をダイヤモンド社に紹介し日本語版の出版を提案した統計家の西内啓氏に、同書の意義と出版がもたらす影響を解説してもらう。

科学的知識を語るなら、「再現性」を押さえないと恥をかく時代がやってきたPhoto: Adobe Stock

本で紹介されている科学的知見を鵜呑みにするのが危険なわけ

個人的に「欧米の研究者が書いた一般向けの本」というものを読むのが好きで、休暇中などにはよく読むようにしている。最先端の研究成果を紹介し、それを広くビジネスや生活にどう活かせばよいのかというヒントももらえて、ちょっとしたパーティなどでの話題にもなるのだから、これはとても効率の良い趣味だろう。

そうした本で得られる知見は日常会話やSNS上での発信を通して広まっていくものである。おそらく皆さんも、たとえばこんな研究成果についての話について見聞されたことがあるかもしれない。

◆子どもの頃に眼の前にあるマシュマロを食べるのを我慢できたかどうかという自制心の有無で将来の社会的な成功が左右される
◆自制心はある種の有限な資源のようなもので発揮すればするほど消耗するので気を付けなければならない
◆子育てにおいては才能ではなく努力を褒めるほうが学業成績を伸ばす上で良い
◆ストレスのかかる状況では、腕組みしたり前かがみになるより両手を腰に当てるなど開放的なポーズを取ることでストレスが解消される

これらの話には元になった明確な実験があり、それぞれの詳細は「マシュマロ実験」「自我消耗」「グロース(成長)マインドセット」「パワーポーズ」といったキーワードで調べることができるだろう。日本のビジネス書やYouTube動画などいたるところでも言及されている。これらの知見が明らかになったのも注意深く設計された実験と統計解析のお陰であり、「まさに統計学は最強の学問なのだ」――と言いたいところだが、残念ながらそう単純な話ではないのだ。