おそらく私が上記のような知見をもとに物申すことはないし、もし目上の人から上記の知見を根拠としたアドバイスなどをもらうことがあれば正直居心地の悪さを感じると思う。なぜかと言えば、これらの研究成果は全てその再現性が疑問視されているからだ。

一般に、科学的な知見とは誰がやっても、同じような条件で同じような実験を行えば同じように再現されるべきであるとされる。

物理や化学の実験のように百発百中で全く同じ結果が再現されるのはある種の理想であるが、人間を研究対象とする研究のように制御しきれない個人の多様性やバラつきがあったとしても、統計学的に説明できるような一貫性がなければ科学的知見とは言い難い。

研究データの改竄なのか、不正な分析なのか、たまたまそのような結果が出たデータだけを論文にまとめただけなのか、理由はともあれ利害の絡まない他の研究者が再現できないような研究成果は、否定されるとは言わないまでも「判断保留」にしておくというのが間違いの許されない専門家として推奨される姿勢である。

このように、物知りなビジネスマンにはよく知られているが、現在再現性が疑問視されている研究成果というのは無数にある。それらについて、もし皆さんが言及したり自分自身の仕事や生活に役立てたいと思うなら、ぜひ「マシュマロ実験 再現性」といったように検索し、その再現性について確認する習慣をつけていただきたい。そうでなければ、ご自身あるいは周囲の方々が間違った方向へ無駄な労力を重ねてしまうことになってしまうリスクがあるのだ。

「科学の再現性問題」の良質なガイドブックを発見!

ただ、ここまで読まれた方は、「なぜそんなことになるのか」という疑問を感じたかもしれない。世界的に有名な大学や研究機関に所属する、立派な研究者たちが発表した知見を言及するにあたって、なぜわざわざ一般市民がいちいち再現性の問題を調べなければならないのだろうか?

その説明を手短にするのは難しく、書くとしたら一冊の本を書き上げなければいけない大仕事である。科学的知見を解釈するにあたってどのような点に注意すべきか、あるいはそもそもなぜこうした再現性の問題が生じて、現在どのような対策が講じられているのか、といった点について網羅的に書かなければいけない。「いつかは社会的責任としてそういう本も書かないといけないんだろうな」と個人的に感じていたのだが、幸い習慣的に欧米の書評をチェックしていたところある本の存在を知り、是が非でもこれは日本語訳版を発売すべきだとダイヤモンド社に申し入れた。これがまさに本書『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』である。

幸いなことに、日本語版発売前の自分のX(旧Twitter)上での言及も多くの方にシェア・閲覧され、すでに本書は「発売即3刷」「Amazonランキングトップ20入り」など科学リテラシーの啓発書としては異例の売れ行きを示している。この分野に関する日本の読者の関心とリテラシーの高さに驚くばかりである。