企業の理念である以前に、個人のテーマでもあった──クラシコムのミッション

佐宗 先ほど青木さんは「クラシコムの理念は必要に迫られてつくっただけ」とおっしゃいましたが、現在のミッションである「フィットする暮らし、つくろう。」は、どのように生まれたんでしょうか?

青木 クラシコムは僕と妹でつくった会社ですが、なぜ起業することになってしまったかを考えると、自分たちが世の中のフォーマットにフィットできず、居場所がなかったからだと思うんです。だから、「フィットする暮らし、つくろう。」というのは、会社のミッションである以前に、そもそも自分たちのライフテーマでもあったんですね。妹との起業というプライベートな関係の中で始めた場所でもあるので、企業のミッションが個人のテーマと重なっていたのは、ある意味では自然だったと思います。

とはいえ、この言葉は議論して出てきたのではなく、いわば偶然の産物です。最初に僕たちは不動産の取引マーケットサービスで起業しようしたんですが、そのサービスのタグラインが「フィットする暮らし、探そう」というものだったんです。

しかし、結局この事業はうまくいかなくて、僕たちは何もやることがなくなってしまったんです。やろうと思ったことさえできる力もないとわかったし、本当にやりたかったかどうかもわからなくなってしまった。

では、自分はどんなことになら真剣に取り組めて、どういう相手がお客様だったら尽くし続けられるのか。どういうテーマだったら自分も共感し続けて解決したいと思えるのか。それをもう一回考え直したとき、たまたま「フィットする暮らし、探そう」というタグラインが目に入ってきて、「ああ、自分はフィットしたいんだな」と思ったんです。

「フィット」という言葉は、誰も傷つけないんですよね。あくまでも個人の身体感覚の話だからです。たとえば「幸せな暮らし、つくろう。」だったりすると、「幸せじゃない暮らしをしていない人はダメなんですか?」と思う人がいるかもしれない。でも「フィット」であれば、多様な人と合意できる。そういう「旗」になり得る稀有な言葉だったんだと思いますね。

佐宗 たしかに正義を押しつけることのない、とてもすてきな言葉ですよね。では次回は、このミッションからどのようにしてECサイト「北欧、暮らしの道具店」が生まれてきたかについてお聞かせください。

クラシコム代表と考える、いま理念経営が必要なワケ

(次に続く)