『ふたりはプリキュア』で言えば、ジャアクキングの手下たちは「ダークファイブ」と呼ばれるが、ジャアクキングと彼らの関係は、業績を上げられない部下にモラハラ的な圧力をかける上司とその下で苦しむ中間管理職のようで、観ていて辛くなる。あにはからんや、ダークファイブの1人のキリヤはプリキュアたちに触れて改心し、ジャアクキングとの最終決戦においては自らを犠牲にしながらプリキュアに協力する(最後の場面では彼が地球上に生まれ変わった可能性が示唆はされる)。

「暗い明日」の会社と戦いつつ
主人公は明るく育児をこなす

 このような悪の組織の性質は、『HUGっと!プリキュア』においてはもっとはっきりと示されることになる。『HUGっと!』では、悪の組織は文字通りに「クライアス社」(=「暗い明日」社)という企業なのである。手下たちは「係長」「課長」「部長」といった肩書を持つ「社員」であり、プリキュアと戦いに行くためには「稟議」を通してハンコをもらう必要がある。モンスターたちはプリキュアに退治されると「辞めさせてもらいます」と言って消える。

 これに対して、主人公の野乃はなのもとには空から赤ん坊が降ってきて、その世話をすることになるのだが、当初はワンオペ育児がうまくいかない。そんなはなは周囲を頼って助け合いの育児をしていく。また、プリキュアたちの家族も、「アップデート」された新しい形を持っている。はなの母はタウン誌のライターとして忙しく働いており、父は料理などの家事を進んでする人物である。またプリキュアの1人である薬師寺さあやの父に至っては「主夫」である。

『HUGっと!』における育児というテーマは、決して保守的なものではない。つまり、それは旧来的なジェンダー役割としての育児を女性本来の仕事として描くものではない。むしろ、育児、つまりケア労働のテーマを意識的に導入することで多様な家族やジェンダー役割の新たな形を探究する作品となっている。

 その中で、悪役の「クライアス社」が融通のきかない旧来的な会社組織として表象されていることは非常に示唆的だろう。つまり、ここにある構図とは、旧来的な日本型福祉国家を担った、ジェンダー役割という観点からは「古い価値観」に縛られた会社組織に対する、「リベラルにアップデート」された育児や家族の形をプロモートするプリキュアの戦いというものなのだ。