「すべての科学研究は真実である」と考えるのは、あまりに無邪気だ――。
科学の「再現性の危機」をご存じだろうか。心理学、医学、経済学など幅広いジャンルで、過去の研究の再現に失敗する事例が多数報告されているのだ。
鉄壁の事実を報告したはずの「科学」が、一体なぜミスを犯すのか?
そんな科学の不正・怠慢・バイアス・誇張が生じるしくみを多数の実例とともに解説しているのが、話題の新刊『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』だ。
単なる科学批判ではなく、「科学の原則に沿って軌道修正する」ことを提唱する本書。
今回は、本書のメインテーマである「再現性の危機」の実態に関する本書の記述の一部を、抜粋・編集して紹介する。

【統計学「ランダム化」の謎】統計好きでも意外と知らない「検定力」の正体Photo: Adobe Stock

ノイズと効果をどう見分けるか?

 たとえば、どのような状況でも瞬時にすべての痛みが消える完璧な頭痛薬があったとする。この超強力な効果を理解するために、p値や統計値は必要ないだろう。理論上は、薬を服用した頭痛患者と、プラセボや効果の低い別の頭痛薬を飲んだ対照患者を1人ずつ比較すればその効果がわかるのだから。男女の身長を比較する研究にあてはめるなら、世界中のすべての男性が世界中のすべての女性より背が高いという条件下で検証するようなものだ。

 しかし、言うまでもなく、現実にそのようなことはない。実際の統計的効果のほとんどは、小さくて見つけにくい。実際の頭痛薬は、痛みを1~5の尺度で評価すると平均で0.5ポイント減らせるかもしれないが、たった2人だけを比較したところで、この小さな効果をランダムなノイズから切り離すことは不可能だろう。そのような研究に意味はない。

小さな効果はノイズに打ち消される

 また、10人ずつのグループ2つを比較する場合も、小さな効果がノイズに打ち消される例はいろいろ考えられる。数人の参加者が不注意から、痛みのアンケートで違う数字に丸をつけるかもしれない。アンケートに答える前に頭を殴られて頭痛がひどくなった人がいるかもしれない。酒をやめて頭痛が和らいだ人がいるかもしれない。