価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になってくるのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

「同質化の罠」にはまらないために大切な、たった1つのものとはPhoto: Adobe Stock

問題発見の視点=発想軸

 前回、問題発見の視点について、3つほどヒントを提示しましたが、もちろんこれだけではありません。そして、薄々お気づきかと思いますが、この視点をたくさん持つことができればできるほど、アイデアをたくさん出せるようになってくるのです。

 この問題発見の視点については「発想軸」と表現されることもあります。詳しくは、後ほど説明していきます。

 さて、この問題発見について、ひとつだけ考慮していただきたい点があります。

 エレベーターの例は、アイデアを多く出すためのわかりやすい例題として取り上げました。どれも小さなアイデアかもしれませんが、みんな有用そうでした。

 しかし、このように、発見した問題の解決を順番に探っていくことだけでいいのでしょうか。

コンセプトがあると問題解決のアイデアは発展する

 たとえば、入学志願者が減っている中堅の私立高校を例に考えてみましょう。先生たちが集まり、この入学志願者数の減少に歯止めをかけるために、問題点を挙げていきます。

 ・「周辺校に比較して制服がおしゃれではない」
 ・「学校のことがうまく伝わっていない」
 ・「他校で行われているキャリア教育などがない」

 など

 これらの取り上げられた問題への取り組みは、必要なことではあるでしょう。予算の問題で全部できないというケースもあるでしょうが、仮に予算があったとして、これらの問題それぞれに対処をしていったら、すべてうまくいくでしょうか。

「おしゃれな制服で、ピカピカな学校案内があって、キャリア支援も充実している中堅の私立高校」

 もちろん、悪くはないですし、入学志願者の減少はある程度は、止まるかもしれません。しかし、全国どこにでもありそうな学校とも言えそうです。積極的に通いたい、と思うところまでは行き着かないようにも思えます。

 これは、「同質化の罠」とも言えます。

 ひとつひとつの問題の解決策を順番に行っているうちに、結果としては同質化してしまうのです。同質化の罠は、いろいろな分野でも散見されます。

 たとえば、まちづくりなどで想像してもらうとわかりやすいでしょう。石畳の道、お土産として開発されたお菓子、シンボルキャラクター、子育て支援など、似たような取り組みから、全国に似たような街が多くなっています。

 この「同質化の罠」に陥らないようにするためには、問題の本質はどこにあり、それに対してどのようなコンセプトやアイデアを練ればいいのか、全体を俯瞰しながらアイデアをつくっていくことが大切です。

 先ほどの私立高校の例に戻って考えてみましょう。学校の問題解決の前に、目指すべき学校のコンセプトをつくると同質化からは離れていけそうです。

 たとえば、学校のコンセプトを「変わりたい、に限界はない」としてみたらどうでしょうか。

 本当は、もっと上の学校に行けたかもしれない、と思いながら入学した生徒たちが多い中堅校だったとしたら、彼らの「変わりたい」をどこまでも後押ししてくれる学校こそが、卒業時や卒業後の満足度が高い学校になれるかもしれない、そんなことを願いながらつくったコンセプトです。

 このようなコンセプトがあると、問題解決策の中身も変わってくるはずです。

 生徒たちの「変わりたい」という意思を限界なくサポートする教育制度って何だろう、と考えてユニークなキャリア支援制度構築につながるかもしれない。学校の制服だってちょっと変えるのではなく「限界はない」というところから考えてみたら、そもそもの制服のあり方の根本から問い直すことができるかもしれません。

 どうでしょうか。コンセプトがあると、そこを軸に問題解決のアイデアは発展していきます。次からは、もう少し具体的に、私が使っている方法論をお伝えしていきます。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤 安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。