価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になってくるのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

エレベーターの「待ち時間が長い」を解決するアイデアとは?Photo: Adobe Stock

「心理的に」待たされている、を解決するアイデア

 次に物理的ではなく「心理的」に待たされていると感じていることが原因だと設定して、アイデアを考えていきましょう。

「待ち時間が長い」というのは30秒でも感じる人は感じます。いくら物理的に速くしたところで、この人のイライラを減らすための根本的な解決にはならないでしょう。28秒でもイライラするだろうし、20秒まで短縮してもイライラは減らないかもしれません。

 とすると、「待ち時間が長いと『感じさせなければいい』」というのがアプローチとなります(下図)。

 このアイデアは、たくさん出てくるのではないでしょうか。

 鏡を設置する、テレビモニターを設置する、音楽を流す、クイズが書かれた紙が張られている、といったものです。

「問題が起こっている状態」を深掘りして軸がつくれると、そこからはスルスルとアイデアが出やすくなってくるのを感じていただけたでしょうか。

 実際の現場においても「この問題の解像度を上げる」ということがとても大切になってきます。

解像度を上げるために、複眼的に観察する

 では、この「問題」の軸をどのように発見していけばいいのでしょうか。私は、物事をいろいろな側面から眺める「複眼的な観察」が必要だと思っています。

 ただ、あらゆる視点から物事を観察しましょう、といっても取っ掛かりがなさすぎるので、問題の発見の仕方、視点の持ち方のヒントをお伝えします。

①関係図を描いてみる
 ドラマや映画の登場人物の相関図を見たことはありますか。誰と誰が夫婦で、誰と誰が親友で、かつてどこにトラブルがあり、誰が誰に復讐心を持っている、みたいなものです。

 これを、人だけではなく、モノもあわせて関係するものを描いてみます。そして、関係をつないだり、矢印を描いたりしてみましょう(図8)。エレベーターから人には「物理的な時間として待たせている」、人からエレベーターには「待たされていると心理的に感じている」、他にもエレベーターのボタンの上などに「いつ来るのかわからない」と書いてもいいかもしれません。

 また階段を描いてみるとどうでしょう。「階段を使ったら移動できていたのに」と思ってイライラしているのであれば、階段の使用を促すこともいいアイデアかもしれません。

②コンテクストなど「状況」がどのようなものか
 主人公の状況はどのようになっているのか。そこを、想像してみるとどうでしょうか。一時的なことでも、特殊な状況でも大丈夫です。

 たとえば、ものすごくトイレに行きたい状況でエレベーターを待っている
 たとえば、エレベーターホールがすごく寒い(暑い)中で待っている
 たとえば、エレベーターホールがすごく臭いなど環境の悪い中で待っている
 たとえば、遅刻などに厳しい上司がいる

 これらも、すべて「問題」として捉えるとアイデアが出てきませんか。遅れると上司に怒られることがイライラの原因だとしたら、怒られなくて大丈夫なように遅延証明書を発行できるようにすればいいかもしれません。

 ここで大事なのは一般的なコンディションではなく、具体的に想像していろいろな状況を書き出してみることです。

 他にも、エレベーターの待ち時間という瑣末なことでイライラしているというのは、従業員のメンタルヘルス的に問題があるのかもしれない、という視点も持てるかもしれません。カウンセラーとの対話の機会を設けていくとか、もしくは、社内のカルチャー全体を変えていくような取り組みが、アイデアとしてあるかもしれません。

③時間軸の中で考えてみる
 時間軸で考えてみる、というのは、忘れがちな視点です。未来への時間軸で考えてみると「待ったところでいいことはない」ということもあるでしょう。こちらも、逆転させてみると、長時間待たされてもいいと思えるほどのいいこと(楽しい、嬉しい、面白い)がある、となります(図9)。長時間待たされてもイライラしないほどのいいことって何でしょう?

 私だったら、エレベーターの中にマッサージサービスがあるだったり、エレベーターガールが推しのアイドルになっているだったりでしょうか。なかなか現実的ではありませんが、そういうアイデアも含めて「全部出す」ようにしましょう。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤 安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター

1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。