「有事のドル」復活にスイス・フラン健在も円は変容、有事に強い通貨から読む為替相場Photo:PIXTA

イスラエルとイランの空爆の応酬に、市場では緊張が走った。この時の為替市場の一次反応は、有事に強い通貨の変遷史を想起させた。かつて地政学リスクや経済危機に強いとされた円は様相を変えつつある。「有事のドル」は復活してきた。ただし、そこにユーロ、スイス・フラン、さらに中国元や金が絡む。強い通貨を巡る歴史から、円と日本の実情を読む。(楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー TTR代表 田中泰輔)

イランとイスラエル衝突後
円は対ドルで上昇も程なく反転

 4月19日、すわっ中東地政学リスクが一線を越えたか、と市場に緊張が走った。4月1日にイスラエルが在シリアのイラン大使館周辺を空爆した。イランは13日に300を超えるドローン、ミサイルを発射し、初のイスラエルへの直接攻撃に出た。そしてイスラエルは19日、イランに反撃の空爆を加えた。

「イランで爆発音」というニュースが報じられた瞬間、為替市場では、スイス・フランが上がり、円も上がった。しかし程なく、円に対してドルが反転した。この初期的な微反応に、通貨と国家の歴史の変遷を想った。

 中東が「世界の火薬庫」と言われて久しい。イスラエルとアラブ諸国が対立を続け、双方の背後に米中ロなど大国がいる。アラブ諸国内にもイスラム教宗派の違いによる対立がある。錯綜する対立構図ゆえに、戦火が一触即発で広がりかねない危うさが付きまとう。産油地であり、欧州-アジア間の物流の要である中東の戦禍は、世界経済に直ちに影響しやすい。

 今回の事態は、パレスチナ・ガザ地区を実効支配するハマスが、2023年10月にイスラエルに派手なテロ攻撃を行ったことに始まる。イスラエルは反撃し、ガザ地区を攻撃、侵攻し続けている。しかし市場は、まだ限られた地域の悲劇という目で捉えてきた。

 警戒されたのは、ハマスの背後にいる中東の大国イランと、イスラエルが直接ぶつかることだ。それが、イスラエルを直接支援する米英、イランを後方支援する中国、そして米英が中東情勢に関与するほどウクライナ支援が手薄になるともくろむロシアを巻き込むと、中東全体、世界戦争へ広がりかねないと、思惑が走る。