iPodからiPhoneまで、アップル復活の舞台裏を知る「唯一の日本人経営者」が、アップル退社後に初めて語る「これからの世界」での働き方。日本のメールコミュニケーションは世界から見ると実はかなり特殊である。では、伝達ツールとしてもっと効果的に活用するには、どうすればいいのか?

長文メールは言い訳にすぎない。メールは短く簡潔にする

 これからの世界で働くみなさんは、外国におけるメールのやり取りが日本と大きく違うということを理解しておいたほうがいいと思います。

 外国人とメールをやり取りした経験のある方はわかると思いますが、メール文はそっけないくらい短いです。これは、彼らがメールをお互いの感情のやり取りを前提としたコミュニケーションツールではなく、ビジネス上の伝達ツールとして非常にクールに考えていることを表しています。時には「無言メール」を送って寄こすこともあります。

 あれはiTunes カードをセブン・イレブンで扱ってもらえるように成約を取り付けたときです。カード売上では現在でもセブン・イレブンがトップですが、本国アメリカでは日本ほど店のイメージがよくない。アメリカからの旅行客が東京に来たときに、たまたまセブン・イレブンで販売しているのを目撃し、それを写真に撮ってスティーブ・ジョブズに送ったのです。「日本ではこんなところでカードが売られている。いいのか?」と教えようとしたのでしょう。

 スティーブはすぐさま当時COOだったティム・クックに「これは何だ?」というメッセージを写真につけてメールで送りました。ティムはそれをそのまま、何のコメントもなく私に転送してきたのです。

 彼らのメールは普段から短いですが、無言は短すぎというか滅多にない。たまに「?」だけのメールが来てビックリしますが、このときの無言メールには見たとたん背筋が寒くなりました。

 すぐさまアップル・ジャパンの全スタッフに「セブン・イレブンが正しく高く評価されている資料を探せ」と緊急発令を出しました。幸い、「日本人が一番リピートしたい場所ランキング」で東京ディズニーランドに次いでセブン・イレブンが2位になっていた資料を見つけられました。その資料に3行以内のコメントをつけて、送信しました。送信をクリックするときは、一か八かという気持ちもあって自然と目をつぶっていました。無言メールを受信して、10分後のことです。

 ダメなときは「NO」と書かれたメールが返信されてきますが、このときは24時間たっても何のメールも来ませんでした。日本人の感覚だと、「相手は納得していないのでは?」「まだ怒っている?」と気が気ではありませんが、返事がないのは「納得した」という合図になります。

 世界のメールはこんな具合です。だから、メールに頼ったコミュニケーションをしている限り、外国人とのやり取りはかなり困難だということは理解しておいたほうがいいかもしれません。フェイス・トゥ・フェイスで相手の目を見て、反応を見て、相手の要求を聞き取り、適格なコミュニケーションをする力が絶対に必要なのです。