大陸に対峙しながら外敵の侵略を防ぐ
風土が似た英国と日本で異なる「差別議論」

 今回は、先進国に深く根付いている「差別」というニューフロンティアの輪郭を切り取りたい。

 英国と日本は似ていると言われる。ともに大陸と対峙しながらも水域によって外敵の侵略から守られた歴史の中で、島国の住人の特性が発達した。

 この結果、他人との間の距離感がほどよく保たれ公共道徳心が高い。どこでも行儀よく列をなし、待たされても文句を言わない。言葉使いも丁寧で直裁な物の言い方をしない。すぐに親しい関係にはならないが、時間をかけて構築する人間関係は続く――。

 少し表層的な観察だが、当たっているところも多い。しかし、英国に長く住むと日本との違いの方に気をとられる。特に感じるのは、英国における議論の活発さと対照的な日本における議論の不在である。

 かつて英国でも、社交の場で政治や宗教の話は避けたようだが、今ではそのタブーもない。市民社会の変化に伴う様々な伝統的概念が進化し、個人の権利、異性間・同性間の関係、家族のあり方、さらには何が国家を構成するのかといった概念が変化し、多様化している。そしてこの変化、多様化に根ざした議論が社会の活力となり、その進化を可能としている。

 BBCのゴールデン・タイムの人気番組『Question Time』では、その時々に社会を賑わすテーマに関するタウン・ホール形式の討論会を、全国各地の会場から生中継する。パネリストは政治家、学者、スポーツマンなど多岐にわたるが、議論を茶化したり、他の人の発言や立場を揶揄することはなく、疑似芸能人のように振る舞わない。

 議論が白熱すると発言は交錯するが、怒鳴り合いにはならない。取り上げられる問題は、政治・経済問題や国際情勢に及ぶが、市民生活に直結する問題に関する議論が一番白熱する。