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加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

歴史は終焉するか? フクヤマVS鄧小平
未完のイデオロギー闘争

加藤嘉一
【第2回】 2013年4月23日
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戦後からポスト冷戦で
歴史は終わったか

 フランシス・フクヤマ氏(Francis Fukuyama)という政治学者がいる。

 その名の通り日系アメリカ人であるフクヤマ氏は、1989年に『The End of History』(歴史の終焉)という論文をThe National Interestという学術ジャーナルに寄稿し、1992年には『The End of History and the Last Man』(Free Press)という著書を出版している。

 1989~1992年と言えば、国際政治システムを歴史的変化が襲った時期である。ソビエト連邦が解体され、“冷戦”(冷たい戦争)が崩壊した。

 第二次世界大戦が終わり、朝鮮戦争などを経て、米国とソ連はそれぞれ“西側”と呼ばれた資本主義陣営と“東側”と呼ばれた共産主義陣営を代表する主要大国として、イデオロギー闘争を繰り広げた。1962年には所謂“キューバ危機”が勃発、米ソ対立は世界中に第三次世界大戦を予感させ、核戦争寸前までエスカレートした。

 “西側”は民主主義、“東側”は社会主義を掲げ、政治体制だけではなく経済発展モデルまでをも、市場経済VS計画経済という形でイデオロギー闘争の渦の中へと飲み込んでいった。

 そんな冷戦が終わり、ポスト冷戦時代への移行期にある過程で登場したのが、冒頭におけるフクヤマ氏の論考『The End of History』(歴史の終焉)である。

 同論文・同書を通じて、フクヤマ氏は、ソ連邦の解体、冷戦の崩壊は自由民主主義の共産社会主義に対する完全勝利を意味しており、前者こそが人類の平和と繁栄を永久に保障してくれる最高の政治体制であり、と同時に人類が追求する最終の社会システムであることを主張した。

 私は当時小学校に上がるか上がらないかという頃であったため、ソ連の解体も冷戦の崩壊も全く記憶にないが、フクヤマ氏の論考が世界中の知識人をイデオロギーや価値観をめぐる新たな論争へと追いやったことは想像に難くない。

 西側陣営に属していた日本は“冷戦”という文脈の中では“戦勝国”となったわけだが、当時の日本社会・国民がどのように日系アメリカ人であるフクヤマ氏の「歴史の終焉」を迎えたのかは興味深い。歓喜だったのか。違和感を遺したのか。それとも、自国のバブル崩壊でそれどころではなかったのか……。

 “敗戦国”として挑んだ冷戦時代、“戦勝国”として挑んだポスト冷戦時代――。

 日本人にとってのポスト冷戦時代は即ち“失われた××年”と時期を共にする。この期間、日本人にとって、何が終わって何が始まったのか。或いは、何か始まって何が終わったのか。

 私たちは、頭の中でタイムマシーンを想像しながら、歴史を遡ってみる必要があるのかもしれない。

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加藤嘉一 

1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

 


加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

21世紀最大の“謎”ともいえる中国の台頭。そして、そこに内包される民主化とは――。本連載では、私たちが陥りがちな中国の民主化に対して抱く“希望的観測”や“制度的優越感”を可能な限り排除し、「そもそも中国が民主化するとはどういうことなのか?」という根本的難題、或いは定義の部分に向き合うために、不可欠だと思われるパズルのピースを提示していく。また、中国・中国人が“いま”から“これから”へと自らを運営していくうえで向き合わざるを得ないであろうリスク、克服しなければならないであろう課題、乗り越えなければならないであろう歴史観などを検証していく。さらに、最近本格的に発足した習近平・李克強政権の行方や、中国共産党の在り方そのものにも光を当てていく。なお、本連載は中国が民主化することを前提に進められるものでもなければ、民主化へ向けたロードマップを具体的に提示するものではない。

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