Photo by Jun Morikawa
電力会社の地域独占体制に風穴が開き始めた。東京電力管内で、ついに中部電力や新日鐵住金が火力の発電・小売りへの参入を決めたのだ。はたして、真の電力競争時代が到来するのか。
5月24日、中部電力のホームページのど真ん中に突如、大きな文字が現れた。「東京電力が実施する電力卸供給入札への参加について」──。
そこには、同日締め切られた東電管内の火力発電の入札に、中部電が東電と組んで参加する旨が書き込まれていた。部外者にはピンとこないこのお知らせだが、少しでも業界に詳しい人物が見れば事の大きさがわかるかもしれない。
「中部電にとっては東電管内で事業展開できるまたとないチャンスを得た」と政府関係者は代弁する。
今回の入札は、原発事故を受けた資金難で火力発電所を自前で建設できない東電に代わり、電力を卸す企業を募集したもの。中部電は東電と特別目的会社(SPC)を組み、東電の常陸那珂火力発電所の敷地に60万キロワット規模の石炭火力発電所を建設する計画だ。
一番の肝は、発電した電気の約3割を中部電が東電管内で販売する点である。今でも電力自由化で法律上は地域をまたいだ電気の販売は可能だが、実際には九州電力が中国電力管内に販売した1件しか、事例がない。
しかも、かつて電力業界の頂点に君臨した東電の管内で、他電力が事業展開するというのだからなおさら画期的だ。入札では、鉄鋼業界からも新日鐵住金がJパワーと共同で鹿島製鉄所に石炭火力を建設することが決まっており、異業種からも参入する。
昨年7月に、東電を実質国有化した国は、こうした他電力や他業種による参入を促すことで、まずは東電の火力発電所の“切り離し”を狙っており、その方向性がさらに明確になったといえる。