「灯台下暗し」という表現がある。中国の河北省を説明するとき、どうしたわけか、私はいつもこの表現を思い出す。これほどぴったりした表現はないと思うほどだ。
河北省に対する厳しい評価
2009年に出版された拙著『「中国全省を読む」事典』での河北省についての説明は、今、読み返すと、かなり厳しいものだったことに気付いた。
「北京と天津を囲むように位置している河北省は、北戴河を除くと注目を浴びるようなトピックがあまりない」「省都石家荘市はいまだに存在感が薄い」「(19)80年代に華北地区で、横の連携の強化などついて互いに協力するという主旨で、北京、天津、山西省、内蒙古自治区と提携して華北経済技術協力・合作区を発足させた。しかし、これといった成果はあがっていなかった」
「90年代にはいってからは、北京や天津に近いという有利な条件をいかして、環京津経済地帯または首都圏をつくろうという声が高まったが、それもいつの間にか消えてしまった」「地震多発地域と見られているのも、同省の外資誘致に不利な要素の一つだ」「いまの河北省は人々に鮮明な印象をなかなか残すことができない。同省を紹介するインターネットのあるサイトでは、同省を浙江省と書き間違えているくらいで、黄河を挟んだ河南省と同じ悩みを抱えている」……。
「灯台下」の「灯台」とは、いうまでもなく北京と天津のことを指す。その2つのスター級大都市が放つ強烈な輝きに、ただでさえ自らの存在が隠されてしまいがちなのに、河北省の自己努力が足りなかったせいもあり、私の以上のような酷評を招いたのだ。
千載一遇のチャンス
しかし、その河北省にも千載一遇のチャンスがやってきた。河北省唐山市の南80kmのところにある曹妃甸(そうひでん)開発プロジェクトだ。2008年に北京で五輪を開催することが決まった瞬間、長年、北京に製造基地を有する首都鉄鋼コンビナート(中国では普段、「首鋼」と略称)は立ち退かざるをえない存在になった。2003年から、年産800万トンの鉄鋼企業をまるごと移転させる巨大なプロジェクトが始まった。曹妃甸は首鋼の新しい生産基地として、操業が始まれば国際的に一流レベルの鉄鋼基地となる、という青写真が描かれた。
面積380平方キロメートルの曹妃甸工業区は、累計230平方キロメートルの土地を埋め立てており、総投資額3000億元以上、ピーク時は一日あたりの投資額が4億元といわれ、「中国最大の工業地」と称されることもあった国家級循環経済モデル地区である。唐山の都市と産業のモデルチェンジの夢を背負うだけでなく、河北省の沿海経済強省戦略の成否をも握り、京津冀(北京・天津・河北省)地域の発展戦略を担うとみられていた。