春節の大みそかの前夜、19時30分ごろ北京西駅に到着した。黄金色にライトアップされた伝統ある駅の正面玄関前には1つのスローガンが掲げられていた。
「永遠把人民対美好生活的向往作為奮斗目標」ーー。
「永遠に人民の豊かな生活への追求を奮闘の目標とする」を指す。新鮮さに欠ける、聞き慣れた常套句だ。
このスローガンの主語は誰か。
9000万人以上の党員を抱える中国共産党である。同党の首長であり、中華人民共和国の最高指導者である習近平は、2017年秋に開催された党の19回大会で行った談話で、「中国の特色ある社会主義が新時代に突入した今日、我が国社会の主要な矛盾は、人民の中で日増しに増加する豊かな生活への需要と不均衡で不充分な発展の間に存在する矛盾へと転化している」と主張している。
スローガンがその延長線にあることは容易に理解できた。中国は「文字の国」である。そこにどれだけの誠実さや真実性が隠れていようとも、中国共産党は自らの政策や考慮を文字にして、談話の中のエッセンスとして忍び込ませたり、道端や駅の前にスローガンとして掲げたりする。そういう文字は至るところに存在する。どこに行ってもそういう文字が可視化されている。
だからこそ中国を理解することには骨が折れる。辛抱強く自分なりの“現場”に足を運び、愚直に己の中国観の形成に奔走すべきゆえんがそこにあるのだ。
“民族大移動”が展開される春節
拳銃を保持した武装警官が巡回
延べ30億人の“民族大移動”が展開される春節(2019年は2月5日)の時期だからであろう。駅の中ではこれまで見たこともない数の、拳銃を保持した武装警察が巡回し、人民たちの一挙手一投足に目を光らせていた。ある乗客が入ってはいけないエリアに入ろうとすると、ジェスチャーでそれを伝える。
彼らは安易に言葉を発しない。