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加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

「安定」「成長」重視か「公正」「人権」尊重か
胡錦濤と習近平の20年を読み解くための4つの軸

加藤嘉一
【第6回】 2013年6月18日
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中国社会を考察する上で理解が不可欠な
中国人の割り切り感&プラグマティズム

前回コラムでは、過渡期における中国政治は非民主的、即ち、政府の正当性が制度的に担保されていないにもかかわらず、「極端に悪いリーダー」が指導部のコンセンサスによって排除されやすいという構造を述べた。一方、「カリスマ不在の非機能的な集団指導体制」の下では、「極端に悪いリーダー」は自浄的に排除されうるが、「極端に良いリーダー」も出てこないことを検証した。

 「良いリーダー」と「悪いリーダー」の区別もつかなくなるような、あるいは、良くも悪くもない、当たり障りのない平凡なリーダーが蔓延る「保守の時代」に入っていく可能性が高い、と結論づけた。

 本稿では、この結論を念頭に置きながら、2012~2013年にかけて、前任者と後任者として「紅い政権交代」を演じた胡錦濤氏と習近平氏が、どういうリーダーなのかというテーマを検証するために、私が中国共産党による政治・ガバナンスを考える際に応用しているフレームワークを紹介することとしたい。

 これまで本連載で言及してきたように、中国の政治体制における伝統的な特徴のひとつは「政府の正当性」(Accountability)の不在・欠陥にある。理由は、リーダーを含めた政府が国民によって選ばれていないからであり、「国民が政治を一部の権力者に委託している」という手続き・プロセスが制度的に踏まれていないからである。

 それでも、政治が政治として機能するためには、政府は人民から何らかの「信任」を得なければならない。中国においては、その信任が「ガバナンスにおける結果・業績」に相当する。要するに、結果さえ残していれば、たとえ政府が民主的でなくても、リーダーが多少の腐敗を犯していても、政策実行のプロセスに透明性が欠けていても、人民は「それほど気にしない」ということだ。

 2003~2012年にかけて、北京を拠点に生活しながら常々感じていたが、ある意味、中国人民ほど権力の横暴に無頓着で、政治の腐敗に忍耐的な民族は他に類を見ないように思う。多くの中国人が「腐敗は文化」と割り切っているように、「中国は歴史的にそうだから仕方がない」というメンタリティーもあるように感じる。中国人の血液に流れるプラグマティズムとも言えるだろう。

 政治だけではない。経済活動、民間コミュニケーション、メディア報道、大学経営、地域活動、文化イベントなど、中国社会を構成するあらゆるファクターを俯瞰してみると、“割り切り感&プラグマティズム”というチャイニーズ・メンタリティーは、私たち外国人が中国政治を考察していく際に意外と役に立つ。

 ただ単に、「中国人は民主主義なき政治を受け入れない」、「そろそろ民主化しないと中国社会はもたない」、「経済が市場メカニズムで動き始めているのだから政治も民主主義で動かすのがセオリーというものだ」などという、私たち“外側”からの論理展開のみでは、悠久かつ動的な中国政治にはアプローチしきれないと私は考える。

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加藤嘉一 

1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

 


加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

21世紀最大の“謎”ともいえる中国の台頭。そして、そこに内包される民主化とは――。本連載では、私たちが陥りがちな中国の民主化に対して抱く“希望的観測”や“制度的優越感”を可能な限り排除し、「そもそも中国が民主化するとはどういうことなのか?」という根本的難題、或いは定義の部分に向き合うために、不可欠だと思われるパズルのピースを提示していく。また、中国・中国人が“いま”から“これから”へと自らを運営していくうえで向き合わざるを得ないであろうリスク、克服しなければならないであろう課題、乗り越えなければならないであろう歴史観などを検証していく。さらに、最近本格的に発足した習近平・李克強政権の行方や、中国共産党の在り方そのものにも光を当てていく。なお、本連載は中国が民主化することを前提に進められるものでもなければ、民主化へ向けたロードマップを具体的に提示するものではない。

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