日本のインキュベーターの危機?
インキュベーション活動の休止や縮小

「このところのインキュベーターのデモデーにはがっかりさせられる」

 これは知り合いのベンチャーキャピタリストが溜め息と一緒に吐いた言葉だ。

 デモデー(demo day)とはスタートアップが自社のビジネスを投資家やインキュベーターにお披露目するプレゼンテーション会だ。スタートアップにとって投資家や、新たな事業パートナーとの出会いのきっかけとなる重要なイベントだ。

 話を聞くと、今年5月のあるインキュベーターのデモデーではたった3社しか登場せず、そのうち2社は既に知られた会社だったという。米国トップのYコンビネーターは一度に約50社、500 Startupsは約30社がプレゼンするのと比べ一桁少ない。そればかりか、日本では活動を休止したインキュベーターまである。

 この話を聞いて、筆者は日本のインキュベーターが第2フェーズに入っているとの認識を強くした。

 振り返ってみれば、2005年から数年で、現在世界から注目されるYコンビネーターやTechStarsなど、従来と比べて劇的に小さな初期投資で、短期間に開発してメドをつけるようなリーン(無駄のない)スタートアップを主に対象とした“次世代型インキュベーター”たちがアメリカで続々と生まれた。その後、世界中でそのフォロワー達が生まれ、日本では、2010年頃からインターネット/ITにフォーカスしたインキュベーターが数社、発足した。

 ところが、今、冒頭のベンチャーキャピタリストの話にあるように日本ではインキュベーション活動を休止あるいは縮小するインキュベーターが出始めた一方、新規参入するインキュベーターも増えている。

 そこで、先行する米国のインキュベーターの例から、第2フェーズに入ろうとしている日本のインキュベーターをレビューし、課題と可能性について整理する。

 インキュベーターが果たすべき役割、スタートアップに提供する価値について、アメリカの事例をもとに整理してみよう。

 まず役割の第一は、メンター・ネットワークをスタートアップに提供することがあげられる。したがって、アメリカの代表的なインキュベーターは、自社のメンター・ネットワークの充実を非常に重視している。