8兆円増税して、5兆円ばらまく。来年4月から大衆課税が始まるが、集めた税金の3分の2が景気対策に消える。社会保障財源に回るはずだった増税で、最も恩恵を受けるのは法人税を払っている大企業ということになる。永田町で繰り広げられる風景は、さながら増税マネーの分捕り合戦である。
消費増税を巡る
安倍政権の勢力相関図
消費増税を巡る攻めぎ合いは、安倍政権を支える勢力の内戦ともいえる展開だ。官邸・官僚・自民党という3極の攻防である。
「官邸」とは安倍晋三首相・菅義偉官房長官を中心とする政治主導を目指す側近グループ、「官僚」は財務省を核とする実務派集団、「自民党」は財務省に同調する税制調査会と土建などの族議員による国土強靭化支持層の混成部隊だ。
首相にはためらいがあった。増税で景気を腰折れさせたら、アベノミクスの成果が台無しになる。高い支持率を支えるのは経済回復への期待だ。これが崩れたら長期政権の夢は消え、念願の憲法改正が遠のく。
財務相を経験していない安倍は、経済政策で上げ潮派だ。財務省の敷いた路線をそのまま走ることに抵抗があった。もともと財政への危機感は希薄だ。
第一次安倍内閣は小泉・竹中路線を引き継いだ新自由主義の色彩が濃かった。政権を投げ出した失意の時代、周辺に集まったのは本田悦郎静岡県立大教授、高橋洋一嘉悦大学教授など経済政策で「傍流の異端者」に位置する人たちだった。
本田も高橋も財務官僚出身だが、役所の外に新天地を求め、財務省路線に冷ややか。そこに竹中平蔵や浜田宏一イェール大名誉教授などが合流した。経済に明るくない安倍に金融緩和とインフレ政策を吹き込んだのは、こうした人脈である。異端であっても不遇の時の友は信用できる。安倍が耳を傾けるのは側近グループの声である。