発生から2年半を経過しながら依然として”本当の収束”が見えない福島第一原発事故。増え続ける汚染水処理の問題は、日々のニュースに紛れながら伝え続けられています。事故対応は当然のことながら、俎上にあがったままのエネルギー政策再編論議も早急に進めなければならない問題です。今回紹介するのは、経済学側面からエネルギー政策の処方箋を提示した1冊です。

金融危機との比較で浮き彫りにする
原発の本質的危険性と致命的欠陥

円居総一著『原発に頼らなくても日本は成長できる――エネルギー大転換の経済学』
2011年7月刊行。東日本大震災直後に執筆され、経済学的観点から原発問題、そしてエネルギー問題に対して合理的な提言を行っています。

 福島原発事故から4ヵ月後に出版された本書『原発に頼らなくても日本は成長できる』は、「原発ゼロ」で持続的成長が可能であることを論証したものです。著者は旧東京銀行のエコノミストを経て、日本大学で国際経済学を講じる経済学者です。原子力の技術論ではなく、徹底的に費用と便益の関係から分析を進めています。

 原発の仕組みは、じつは非常に単純で、ウランの核分裂反応で発生する膨大な熱によってお湯をわかし、水蒸気の圧力でタービンを回して発電するものです。それだけです。問題は核分裂反応を制御することと、核分裂後の放射性物質を管理すること、そして放射性廃棄物の処理なのです。

 放射性廃棄物の最終処分場はありません。再処理して出てくるプルトニウムをもう一度燃料にして循環させるシステムを開発中ですが、完成の見込みはまったくありません。核廃棄物はけっきょく発電所で管理し、しばらくすると中間貯蔵施設に運ぶだけです。その先は不透明なのです。

 システムが崩壊すると暴走して世界的危機に拡大する金融と比較して、著者は原発の本質的危険性についてこう書きます。

 金融の場合は、危機を最終的に収集する中央銀行の「最後の貸し手」機能があり、金融機関が経営危機に直面した場合は中央銀行が貸出をして救済する。その存在が前提となって危機は収束したのである。
 では原子力発電における危機管理は、万全と言えるのだろうか。原子炉暴走の危険性は金融の比ではないが、その安全システムの致命的欠陥が今回明らかになった。すなわち、事前の安全システムも脆弱で、危機に立ち至った場合にそれを収拾する手立ても、技術も備えていなかったのである。(18ページ)