ベイズの定理

 不確実な状況(不完全な情報)において、何らかの出来事が発生する確率を導き出すのがベイズの定理だ。

 かつて関西のテレビに「ラブ・アタック」という番組があった。私などにはとても懐かしいのだが、1人の女の子をめぐって5人の男子がドンゴロス(麻袋)に入って障害物競走をしたりフルコースを早食いしたりするという番組で、最後に残った3人が歌を歌って「かぐや姫」に順番にプロポーズするというもの。司会は、横山ノックと上岡龍太郎、和田アキ子だった。以下は、その番組をイメージしての設問。

【問1】
ABCの3人の候補のうち、「かぐや姫」はすでに誰のプロポーズを受け入れるかを決めているのだが、本人たちには知らされていない。「かぐや姫」の気持ちを知っているのは司会者だけだった。
Aは、「BかCのどちらかは必ずフラれるのだから、フラれるやつを教えてくれ」と司会に頼んだ。すると司会者は、「Cはフラれる運命や」とうっかり本当のことを答えてしまった。
これを聞いたAは、「自分(A)かBがプロポーズに成功するわけだ。確率は1/3ではなく、1/2になった」と考えて、喜んだ。
Aが選ばれる確率は?

 確かにAが喜んだように、確率は1/2になったような気がする。しかし、ベイズの定理(※1) に従って計算すると、「Cはフラれる」と教わったとしても、Aのプロポーズが受け入れられる可能性は1/3のままである。

(※1)ベイズの定理とは、事象B(ここでは司会者の発言)が起きたとき、事前確率を事後確率に更新するための定理。一般的に、事象Bが起こるすべての可能性を分母とし、そのうちの「事象Aが起きて、かつ、事象Bが起きる」という可能性を分子として計算する。

事前確率と事後確率

 以下、簡単に説明しよう。

 事前の確率は、ABCそれぞれ1/3である。

 ABCのうち1人のプロポーズが受け入れられると仮定したとき、「BかCのどちらかは必ずフラれるのだから、振られるやつを教えてくれ」というAに対して、司会がどう答えるかは次のようになる。

Aが選ばれると知っている司会が「Cはフラれる」と答える確率は1/2。
Bが選ばれると知っている司会が「Cはフラれる」と答える確率は1。
Cが選ばれると知っている司会が「Cはフラれる」と答える確率は0。

 以前に紹介した「タクシー問題」と同じで、分母は、司会が「Cはフラれる」と答える確率であり、分子は、Aが選ばれると知っている司会が「Cはフラれる」と答える確率である。結局は、1/3。

 要するに、確率は変わらないのだろうと思った人がいるかもしれないが、それは早合点。この問題では、たまたま同じだったというにすぎない。

 どうもよくわからないという人は、市川伸一がルーレット表現(同型図式)と呼ぶ方法で考えて見るとよい(『考えることの科学』中公新書)。