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保田隆明 大学院発! 経済・金融ニュースの読み方

キリン・サントリー経営統合破談
業界、投資家それぞれの損得

保田隆明 [神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師]
【第43回】 2010年2月9日
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創業家は安定株主か経営の阻害要因か?

 以前、ザイオンラインのコラムでも指摘したが、もしキリンとサントリーの経営統合が成立していればサントリーの創業家が筆頭株主となることは交渉当初から分かっていた。また、サントリーは非公開会社ではあるものの有価証券報告書提出会社であるため、事前に両社の財務情報から統合比率を推定して計算することもある程度可能であった。

 私がザイオンラインのコラムを執筆した当時は、ざっくりキリン3に対してサントリーが2という数字を弾いていたが、今回の報道によれば、キリンは当初1:0.5を主張し、サントリーは1:0.9を主張し、その後キリンが1:0.75程度まで譲歩したものの、結局両社は歩み寄ることはできなかったとのことである。

 サントリーは以前のコラムの繰り返しになるが、創業家が90%以上の株式を保有しているため、統合比率次第では拒否権を有する3分の1以上の株式を保有する筆頭株主となり得る。したがって、規模ではキリンが勝るものの、株主構成では実態はサントリーの色彩が強い統合会社になり得たわけである。

 日本では、トヨタをはじめ、大企業でも創業家の存在が大きい上場企業は少なくない。しかし、それら大企業においては、創業家の株式持分割合は1ケタであり、資本によって所有権や影響力を維持するのではなく、目に見えない「創業家」という看板と存在感によって、資本の持分割合以上の影響力を行使しているのが実態である。それに比べると今回のキリン、サントリーの場合は、実現していれば名実ともに創業家の存在感は圧倒的に高くなることが想定された。他の上場企業でも、その規模で名実ともにファミリー企業である企業は非常に少ない。

 その創業家の存在を安定的な経営にプラスとなるものと捉えるのか、あるいは、経営戦略遂行の阻害要因となる口うるさい株主として捉えるによって、見方は180度異なる。グローバル企業であるにもかかわらず、株主構成はファミリー企業という企業体がどのような経営戦略を遂行していくのか、非常に興味深いところであったが、我々はそれを見る機会を失ってしまった。

業界全体の海外展開の遅れに市場も反応

 さて、今回の経営統合破談は誰を利するのであろうか。もし経営統合が実現していれば、大きく水をあけられるはずだったアサヒビールなど他の国内プレーヤーが助かったという見方をすることができるかもしれない。

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保田隆明 [神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師]

1974年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師。リーマン・ブラザーズ証券(東京/ニューヨーク)、UBS証券東京支店で投資銀行業務に携わる。その後、起業、投資ファンド運用等を経て、10年より小樽商科大学大学院准教授、14年より昭和女子大学准教授、2015年9月より現職。雑誌、テレビや講演で金融・経済をわかりやすく解説する。著書は「あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座」「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」(ともにダイヤモンド社)ほか多数。早大院商学研究科博士後期課程満期退学。
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仕事と両立しながら大学院に通い始めた保田隆明が、大学院で学ぶからこそ見えてきた新しい視点で、世の中の「経済・金融ニュース」をわかりやすく解説する。

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