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田岡俊次の戦略目からウロコ

高まるテロの脅威
薄氷のソチ冬季オリンピック

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第21回】 2014年2月6日
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いよいよ7日からロシアのソチで冬季オリンピックが始まる。だが、チェチェン紛争で16万人がロシア軍に殺され、夫や息子を失った女性たちは仇討の自爆テロでロシアに一矢報いようとしている。ロシア連邦に属するチェチェン共和国の歴史は、ロシアによる征服と弾圧の記録だ。チェチェン人のテロは宗教などの理念よりも民族闘争や報復といった人間の本能に根差す動機が強いだけに一層厄介だ。まさに「薄氷を踏む」思いの冬季オリンピックである。

米英独仏の首脳は開会式を欠席

 今週金曜日2月7日から23日にかけ、黒海北岸のロシア随一の保養地であるソチで開かれる冬季オリンピックはテロに狙われ、厳戒態勢の中での大会となる。ソ連崩壊を機に独立を求めて立ち上がったチェチェン人約16万人がロシア軍に殺され、夫や息子を失った女性たちは仇討の自爆テロでロシアに一矢報いようとしている。1月20日、テロ活動の指導者たちは昨年12月29日と30日にソチの北東約650kmのボルゴグラードで起きた鉄道の駅とバスの爆破(死者計33人、負傷者80人余)の犯行声明を動画で出し、「ソチではプーチン大統領と観客に贈り物を用意している」と予告した。

 「平和の祭典」が血塗られては、安全を宣言してオリンピックを招致したロシア政府の面目は丸潰れだから、人口39万人のソチに警察官3万7000人のほか、連邦保安庁(KGBを再編した情報機関)、軍など計4万人を超える治安部隊を送り込み、街から数十kmの圏内に「鉄の環」の警備体制を敷き、自動車爆弾を警戒して五輪関係者の車と地元ナンバーの車以外は乗入れを禁止し、駅や空港、ホテル、ショッピング・センターなどには金属探知機を配置し所持品検査を行い、海上には巡視艇4隻、空からはヘリコプターや無人偵察機で見張るなど厳重な監視を行っている。競技会場に入るにはチケットだけでなく「観戦者パス」が必要だ。チケットは約30%、30万枚が売れ残り、全ての競技で空席がある、と報じられる。テロの危険に加え、「パス」の申請手続や審査が煩雑なためらしい。プーチン大統領は「テロ防止にあらゆる手段を取る」と言い、選手団や観客の電話、Eメールも傍受の対象とする、と報じられる。

 オバマ米大統領、オランド仏大統領、ガウク独大統領、キャメロン英首相らは開会式を欠席する。その理由として「ロシアが同性愛禁止法を制定したのは人権侵害。それへの抗議の姿勢を示したもの」との報道が欧米で出たが、この法律の制定は昨年6月で内容は「未成年者に対しての同性愛の宣伝の禁止」で、同性愛自体を違法としたものではない。文句を付けたいのならもっと前に「失望」の意でも表明すれば済む話だ。これは首脳側近が記者にほのめかした口実で、実はテロを警戒した、と考える方が自然だ。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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