2004年に国立大学が法人化されてから、2014年3月で満10年となる。
「優れた教育や特色ある研究に各大学が工夫を凝らせるようにして、より個性豊かな魅力のある大学になっていけるようにするために」(文科省「国立大学の法人化をめぐる10の疑問にお答えします!」より)という当初の趣旨は、どのように実現され、あるいは実現から遠ざかっているだろうか?
今回は、東京大学・数理科学研究科図書室に勤務する一人の図書館司書の日常と業務を中心に、「国立大学法人化」とは何なのかを紹介したい。
給与明細で実感する
「公務員ではなくなった」
Photo by Yoshiko Miwa
東京大学には、30の図書館・図書室がある。数理科学研究科図書室は、その一つだ。
数理科学研究科図書室長(2011年当時)のAさんは、2004年、国立大学法人化が行われた時期、別の国立大学で図書館司書(注)として勤務していた。国立大学法人化の前後で、図書館司書の業務の内容が変わるわけではない。給与も、ただちに変動するわけではない。
しかし2004年4月、給与明細を確認してみると、新たな天引き項目が加わり、手取り給与は少し減少していた。新たな天引き項目とは、「雇用保険料」である。基本的には失業のない公務員の身分から、失業もありうる国立大学法人職員への変化。雇用保険料を支払うということは、失業すれば失業給付の受給が可能ということでもあるのだが。
「ああ、公務員ではなくなったんだなあ、と実感しました」
国立大学法人の職員は、現在でも「みなし公務員」である。公務に従事しているものとみなされ、義務や制裁においては基本的には公務員と同様である。しかし、公務員そのものではない。官なのか? 民なのか? これからは、誰のために仕事をすることが求められるのだろうか?
もちろん、変わったことは「雇用保険料」だけではない。
「勤務時間の管理が、厳しくなりました。原則、残業は事前に届け出をしないと出来ないようになりました」
それは、長時間労働を防ぐために、むしろ望ましいことかもしれない。
「でも、人は減るけど仕事は減らないんです」
(注)現在、国立大学法人に職名としての「(図書館)司書」は存在しない。しかしAさんの業務内容は、まぎれもなく図書館司書業務であり、図書館管理業務である。このため、本文中では「(図書館)司書」という用語を用いている。