日本のスコアが低い理由の一つに、回答傾向があります。タワーズワトソンは平均値ではなく、「そう思う」「どちらかというとそう思う」の二つの好意的な回答に着目します。日本人は「?」すなわち「わからない」「どちらとも言えない」という回答率が高いので、日本のスコアは低くなるのです。

 一方で、「エンゲージメントが高い」と分類される日本人のスコアはグローバルと比べても遜色ありません。例えば、「会社の成功のために求められる以上の仕事をしたいと思う」という設問に、「非常にそう思う」「そう思う」と答えた人の割合は、調査対象の日本人従業員全体では49%ですが、エンゲージメントの高い人たちは99%に上ります。エンゲージメントの高い従業員と、低い従業員の意識の格差が、今、日本のビジネスの現場で顕著になっているのです。

――経営トップや人事部は、施策をどのように打ち出していけばよいのか悩みますね。

 同じ企業でも、部門によってエンゲージメント調査の回答にバラツキが生じているケースが珍しくありません。ですから調査を通して、従業員のエンゲージメントを強化していく上で、全社に共通して有効なポイントがあるのか、かなり個別性が高いのかを探り、実態に即した施策を打っていく必要があるのです。まずは、実態をファクト(事実)ベースで把握することが重要です。グローバル時代に、多様性に対応した人事マネジメントやコミュニケーションが求められているのに、現在の状態は、日本のマネジメント層は有効な手を打つための論拠となる基本データを有していない状況です。ここに、企業競争力がそがれている一因があるようにも見えます。

科学的な根拠に基づく
人材施策と組織改革のポイント

――次なる成長を目指すには、業績成長に結び付く従業員意識のモニターが重要なのですね。

 持続的なエンゲージメントの醸成がなければ、現在のような激変する世界で企業は生き残れません。そこが最終的な課題であり、認識すべきゴールだと考えています。そこでタワーズワトソンは、エンゲージメントに関する世界的な調査と、これまで蓄積されている人事関連データなどを検証することで、「持続可能なエンゲージメントに必要な要素」を割り出しました。

 それは、三つの「E」で表現されています。まず、これまで説明してきた従業員のエンゲージメントです。すなわち会社の方向性や目標を理解し、それが正しいと信じている。組織の成功のために全力を尽くそうとする意志がある(Engaged)。その上で、エンゲージメントを持続させる環境(Enabled) と活力(Energized)があることです。

 Enabledは、従業員が成功するための阻害要因をなくす、能力を発揮させるために必要な権限やリソースを与える、あるいは自身で困難な課題を効果的に乗り越えていく能力を備えているなどです。一方、Energizedでは、従業員個々の熱意と活力がみなぎり、職場に協力の風土があり、仕事の達成感を感じられることなどがその要素です。

――それらはまさに現場改革のテーマではないでしょうか。

 そこが誤解されやすいのですが、エンゲージメント調査や、キードライバー分析の結果は、マネジメント層が自分たちの掲げた戦略を実現する上で、組織と人材をどうマネージするべきかを考えるためのものであり、マネジメントにファクトと宿題を手渡すツールです。決して、現場改善のために現場にアクションを考えろ、と強要するものではありません。

 タワーズワトソンは、国別や同業種別、規模別などの多様なベンチマーク指標を保有しています。それらと比較してみることでマネジメント層は、より深く課題を理解できるはずです。「エビデンスド・ベース・ヒューマンリソース」(Evidenced Base HR)、つまり、具体的で科学的な根拠を持った指標によって人事政策を考えていくことが、今経営者に求められているのです。