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ニッポン 食の遺餐探訪

外国人から珍重される日も遠くない?
世界が真似できない「日本の卵」の凄さ

樋口直哉 [小説家・料理人]
【第17回】 2014年4月2日
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魚住農園の「卵」。ひとつひとつ、形の違う卵は工業製品ではない。食べ物を扱う心構えのようなものを問われている気がした

 日本の卵が世界に誇れる理由は、国産食材の安全性を象徴しているからだ。外国では基本的に卵の生食を勧めていないが(殺菌された卵はある)、日本は生食を基準としている。たしかに日常的に卵を生食する食習慣があるのは世界広しといえど日本だけ、とはいっても、これはすごいことだ。

 かつて外国人から刺身を食べることを『魚を生食するなんて野蛮』と揶揄されたこともあった。しかし、今では世界中の誰もが寿司に夢中だ。時代が変われば人の認識も変わる。そのうち日本の卵も外国人から珍重される時代が来るかもしれない。

 なにより日本人は卵が大好きだ。数年前の調査だが、1人あたりの鶏卵消費量は世界2位という数字も出ている(ちなみに1位はメキシコ)。最近は消費量が低下していく傾向があるが、それでも少なくない数字である。

 ところで、日本人はいつからこれほどの量の卵を食べるようになってきたのだろう。古い日本映画のなかで病気の人のお祝いに卵を持っていく、というシーンを見たことがあるが、かつて──戦後まもなくくらいまでは──卵はそれなりに高級な食べ物だった。

 まもなくして食事情がよくなってくると、卵の消費量は伸び続ける。消費が伸びれば普通、価格は上昇するが、鶏卵の価格は落ち着いていた。

 大きな理由は昭和30年代に起きた飼育法の変化だ。産卵効率の高いニワトリの導入。さらにはそれまでの『平飼い』から『ケージ飼い』に変わり、生産管理が容易になった。餌もアメリカから入ってきた飼料用の安価なトウモロコシに変わった。その結果、大量生産が可能になった。

 そうして卵は『物価の優等生』と呼ばれるに至る。一方で大量生産、大量消費の流れのなかで、コスト的に太刀打ちできない小規模な養鶏場は姿を消していった。

「物価の優等生」を襲う価格上昇の波

 そんな鶏卵事情に変化が起きているのはご存知だろうか? このところ鶏卵価格が上昇しているのだ。

 きっかけは2004年の鳥インフルエンザウイルス。その後も、東日本大震災の影響、また餌となる輸入トウモロコシの価格上昇の影響を受けた。また昨年、夏の猛暑でニワトリが減ったこと、生産調整に失敗したことなどを、3月6日付けの朝日新聞は伝えている。

 戦後の安定した成長を支えてきた『物価の優等生』に起きた変化は、時代の転換点を象徴しているように思う。今後、バイオエタノールなどの需要増が見込まれるトウモロコシに、価格が下がる要因はない。つまり、今までように卵は安価だと喜んでいるだけでいられなくなってきているのである。

 ここで立ち止まり、改めて卵をめぐる状況を考え直そう。

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


ニッポン 食の遺餐探訪

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。日本料理はここ十年余りの世界的な流行になり、外国の料理人の多くも関心を持っていて、誰もがそれを理解しようとしている。しかし、当の日本人の多くは日本料理を理解できていないのではないか。そこでこの連載では、日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて、私たち日本人が知らない日本の“食の遺餐”を紹介していく。 

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