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『RUN』著者が語る 「スポーツを描く」ということ

【第15回】 2008年2月8日
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RUN
小宮 良之 著 1500円(税別)

 プロのアスリートは“現代の剣豪”ではないか。

 スポーツノンフィクションライターとして10年近く活動してきた私は、本気でそう思っている。

 コンマ何秒という刹那を生きる彼らは、その勝負いかんで生きる場所を切り開き、もしくは死に場所を求めることになる。その世界はどこまでもシビアだ。どれだけ恵まれた体躯を持っていても、自分と向き合えない人間は技を極めることはできず、技におぼれる人間の心には隙が生まれる。心技体、すべてを備えなければ、勝負には勝てない。そして悟りの境地に達する者たちは、心のどこかに狂気を宿している。

 「バットを握れなくなれば死んだも同然だ」

 日本プロ野球界のある強打者は真剣に語るが、命を懸けて戦う覚悟を持った剣豪たちの境地にそれは似てはいないか。

 私がアスリートたちを追い続けているのは、切ない刹那を懸命に生きる彼らを描くことに快感を覚えたからに他ならない。たった1秒タイムを縮めることに必死になるスイマー、ミリ単位で歩幅を調整するマラソンランナー、氷上というままならない舞台で美を生み出すフィギュアスケーター……彼らは瞬きするような短い時間にかけがえのない人生の意味を見出そうと力を尽くす。

 一流に辿り着くアスリートは、そこに行き着く過程でオーラを纏う。これまでインタビュアーとして圧倒的な雰囲気を感じた人物が、私には1人いる。

 1人はテニス世界王者のロジャー・フェデラーだ。彼は人を包み込むような懐の深さを感じさせた。どこまで心に入り込もうとしてもその深淵は見渡せず、その微笑には唯我独尊の境地に辿り着いた人間だけが得られる落ち着きがあった。

 「私はコートで敵と戦っているが、向き合っているのは自分なんだ。子供の頃は“なぜこれしきのことができない”と自分を責め、相手に怒りをぶつけたこともある。けれど、そんな自分を制御できるようになり、何にもとらわれなくなった」

 そう信念を口にするフェデラーは、海の広さを思わせた。

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