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加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

“暗黒の歴史”天安門事件から25年
習近平は過去を清算し政治改革を推進できるか?

加藤嘉一
【第29回】 2014年6月3日
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中国共産党は過去と
どう向き合うのか

 明日、2014年6月4日、天安門事件が勃発して25年になる。

 “25周年”という表現は適切ではない。「暗黒の歴史」だからだ。

 胡耀邦元総書記の突然の逝去(1989年4月15日)に際して、学生や知識人たちは同氏を追悼し、業績を賞賛する集会を催したが、その後、民主化運動へと発展していった。

 5月20日、北京で建国史上初めて戒厳令が敷かれる。学生運動を“反革命暴乱”と見なした長老・トウ小平(トウの文字は「登」におおざと)は武力による鎮圧を決断。6月3日未明から4日にかけて、天安門広場及びその付近にて軍部が学生や市民たちに向けて発砲し、多くの生命が失われた(当局の発表では、軍部を含めた死者319人、負傷者9000人。一部報道では死者2000人前後というものもあった)。

 当時私は5歳。天安門事件に関する記憶はない。当時の状況や空気感も分からない。書物、記事、映像、あるいは天安門事件に関わった当事者、取材・報道に勤しんだジャーナリスト、中国史を研究する学者といった諸先輩方から教わることを通じてしか知ることができない。現場を見ておらず、間接的な情報に依拠するしかない私に天安門事件そのものを語る資格はない。

 本稿では、あくまでも本連載の核心的テーマである“中国民主化研究”という視角から、中国共産党と天安門事件の関係、より具体的に言えば、中国共産党が民主化を追求する過程で(実際にするかどうかはさておき)、天安門事件という「暗黒の歴史」とどう向き合っていくのか、という一点に絞って考えてみたい。

 「どう向き合っていくべきか」としないのは理由がある。

 “べき論”からすれば、言うまでもなく「中国共産党は天安門事件というこれまでタブー視し、正面から向き合ってこなかった負の遺産を清算すべく(中国語で“平反”:ピンファン)、公の場で当時の情勢や意思決定を振り返り、過失を認め、その原因を究明し、同事件、及びその後同事件にまつわる言動が原因で不当な扱いを受けた組織や個人の名誉を回復し、然るべき処遇を与えること。その上で、政治改革に向けた舵を切るべきだ」となるであろう。

 “平反”(ピンファン)の方法や程度、及び民主化に向けたロードマップやタイムテーブルに関しては具体的に検討されるべきであるが、「清算し、民主化につなげるべきだ」という一点に関してはさほど議論の余地はないと思われる。

 従って、ここでは“ベき論”ではなく“現実性”という観点から、天安門事件という中国共産党にとっての「暗黒の歴史」をとりまく国内環境、そして習近平総書記率いる今日の党指導部が、“平反六四”(天安門事件を清算すること)に挑む可能性を検証する。

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加藤嘉一 

1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

 


加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

21世紀最大の“謎”ともいえる中国の台頭。そして、そこに内包される民主化とは――。本連載では、私たちが陥りがちな中国の民主化に対して抱く“希望的観測”や“制度的優越感”を可能な限り排除し、「そもそも中国が民主化するとはどういうことなのか?」という根本的難題、或いは定義の部分に向き合うために、不可欠だと思われるパズルのピースを提示していく。また、中国・中国人が“いま”から“これから”へと自らを運営していくうえで向き合わざるを得ないであろうリスク、克服しなければならないであろう課題、乗り越えなければならないであろう歴史観などを検証していく。さらに、最近本格的に発足した習近平・李克強政権の行方や、中国共産党の在り方そのものにも光を当てていく。なお、本連載は中国が民主化することを前提に進められるものでもなければ、民主化へ向けたロードマップを具体的に提示するものではない。

「加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ」

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