三菱重工業や川崎重工業などと比べて、これまで“世界一”と胸を張れる製品を持っていなかったIHI。ところが、シェールガス・ブームによる追い風や円高の是正を受けて、業績は回復基調に戻り、独自の技術で世界一の座を狙える製品も出てきた。創業161年目を迎えた老舗企業で構造改革に取り組む斎藤社長に、胸中にある危機意識と改革を断行する必然性について聞いた。

さいとう・たもつ/1952年、山形県生まれ。75年、東京大学工学部を卒業後、旧石川島播磨重工(現IHI)に入社。最初の配属先は航空機用エンジンの組み立てや修理などを行う瑞穂工場(東京都西多摩郡)。以降、ほぼ一貫して、航空宇宙部門を歩む。2009年、取締役航空宇宙事業本部長。11年、代表取締役副社長。12年4月、代表取締役社長兼CEO。趣味は読書で、年間400500冊を読破する。愛称は“たもっちゃん”。 Photo by Shinichi Yokoyama

──5月8日に発表した2013年度決算は、連結営業利益が532億円と過去最高となり、今14年度決算ではさらに650億円と更新する見通しにあります。現在の勢いを牽引しているのは、「航空機用エンジン」と「自動車用ターボチャージャー」(過給機)です。斎藤社長は、業績をどのように受け止めていますか。

 確かに、数字の上ではよく見えるかもしれませんが、為替が1ドル80円から100円に動いたという要因が大きいこともあり、私は楽観的に考えていません。

 近年、続けてきた構造改革が少しずつ浸透してきたという実感はありますが、まだ大きな成果を出せていません。これまで以上に、改革を加速させていくのが今年のテーマであることは変わりません。見た目の数字がよくても一喜一憂せず、しっかりと“利益を出せる体質”に作り変えなければなりません。

 というのも、当社は13年12月に創業160周年を迎えました。現行の「グループ経営方針2013」の策定に当たっては、“160年の総括”をするべく、当社を取り巻く事業環境の変化や、成長要因の分析を徹底して行いました。

 例えば、世間一般の物価上昇率、日本国の成長、世界経済全体の伸びなどに対して、当社はどうだったのかということを過去に遡って精査してみたのです。さまざまな経済指数と掛け合わせた結果、IHIの業績は、世の中の動きとはあまりシンクロしておらず、実質的に「ちっとも成長していない」という本当の姿が判明しました(苦笑)。これは、国内の同業他社でも同じでした。