9月3日に安倍晋三首相は内閣と自民党人事を刷新した。とくにリベラル派の谷垣禎一幹事長、中国とのパイプを持つ二階俊博総務会長などの自民党人事から見て、少なくとも中国の声が自民党の上層部に届くようになり、これまでの618日とは様相が変わってきた。しかし、安倍政権の価値観外交、アベノミクスの行方などについては、中国はどう判断すべきか、今も結論は出ていない。(在北京ジャーナリスト 陳言)

安倍内閣人事と自民党人事の温度差

 自民党上層部の人事刷新については中国でも詳細に報道され、一様に期待をかけているが、2006年に第一次安倍政権が発足した時のような、中日関係の氷をすぐ溶かしたいという熱望は、もはやなかった。

 2012年の年末に第二次安倍政権が発足した時には、6年前の実績があったため、選挙の際に厳しく中国を批判したとはいえ、多くの日本専門家が安倍新政権に期待をかけていた。というのも民主党政権は、当初こそ中国人を鼓舞するような「アジア共同体」などのスローガンを掲げたものの、後に尖閣(中国名:釣魚島)の国有化で中日関係を大きく挫折させたからだ。その未熟さに中国の外交官たちは呆れていた。このため外交を熟知する自民党、とくに安倍首相なら期待できると思っていたのだ。

 しかし、6年ぶりに就任した安倍首相は、まったく様変わりしていた。その価値観外交は、中国から見れば、いうまでもなく中国を孤立させ、中国包囲網をつくる外交である。少なくとも日本のメディアは、安倍首相が外遊の際、かならず価値観について語ることを報道し、それを「中国を牽制している」と解説していた。

 さらに昨年の暮れに安倍首相は靖国神社参拝を断行し、中国は不意打ちされたと感じた。まったく想像もしなかった日に参拝し、日本に対する期待はここで消滅した。

 靖国参拝に対して中日の見方はまったく異なる。確かに昔、大平正芳首相(当時)らが在任中に靖国を参拝した。クリスチャンの大平元首相があえて靖国神社を参拝するのは、戦死者に対する崇敬を表していたが、周辺国を挑発する意味はまったくなかった。もちろんマスコミに予告して参拝したわけでもなかった。おそらく安倍首相も昨年12月26日早朝、一人で密かに参拝することで日本のマスコミが報道しなければ、中国のマスコミなども知ることはなかっただろう。

 しかし、1985年の中曽根康弘首相(当時)による靖国神社の公式参拝によって、はじめて参拝は戦後政治の総決算と結びつき、外国(旧連合国側)には戦前への逆流と思われた。中曽根首相はそれを察してからは、在任中の正式参拝は控えていた。