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双子の遺伝子――「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける
【第4回】 2014年9月18日
著者・コラム紹介バックナンバー
ティム・スペクター,野中香方子

遺伝子スイッチで「空腹感」をコントロールできる?
――体重差27キロの双子と「肥満遺伝子」

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 同じ遺伝子を有し、自然界のクローンとも言われる「双子」。だが、これまでに出会った双子を思い返してみると、不思議なことに気づかないだろうか?
「果たして双子は、『クローン』と呼べるほど『同じ』なんだろうか?」
体重差が27キロある双子、一方だけが乳癌になった双子、ゲイとストレートの双子……。本連載に登場する、「同じ遺伝子を持ちながらまったく違う双子」は、遺伝子だけでは説明できない「何か」の存在を教えてくれる。
このような、遺伝子によらない遺伝の仕組みが、いまや生物学・遺伝学だけではなく、長寿や健康、ガン治療などの観点からも注目を集めている「エピジェネティクス」だ。『双子の遺伝子』が日本でも発売された遺伝疫学の権威が、「同じなのに違う」双子の数奇な運命を通して、遺伝学の最前線を紹介する連載第4回。今回登場するのは……。

ドロシーとキャロルの場合
――同じものを食べてきたのに体重差27キロの双子の姉妹

ドロシーキャロルは双子だが、赤ん坊の頃からドロシーのほうが太っていた。57歳になった現在、身長は同じ173センチメートルだが、体重は27キロの差がある

 「いつもわたしのほうがよく食べるので、よく食いしん坊と言われたわ」とドロシーは言う。「キャロルもわたしも、食べるものには気をつけているけど、確かにわたしのほうがすこし多く食べているわね」

 ふたりは、食べる量や内容に大きな違いがあるとは思っていない。「同じようなものを食べてきたわ。とてもヘルシーなものをね。父親が家庭菜園をやっていて、新鮮なくだものや野菜をたくさんくれたから」とドロシー。「わたしはトマトのアレルギーで、キャロルはチキンのアレルギーだけど」。ふたりは性格が似ていると思っているが、キャロルのほうが社交的で、友だちのタイプは違っていた。「運動量も同じくらいね。わたしは水泳、キャロルはヨガとウォーキング。子どもの頃は、スポーツはあまり好きじゃなかったわ」

 幼い頃のふたりは、自転車に乗ることも、探検することも、ふたりだけで遊ぶことも禁じられていた。「父がかなり過保護だったの。と言うのも、わたしたちが育ったのはイングランド北部で、近くでメアリー・ベルの事件が起きたから(1968年、10歳の少女メアリー・ベルが3歳と4歳の男児を殺害した。メアリー自身もひどく虐待されていた)」とキャロルは振りかえる。

 彼女らには妹がふたりと弟がひとりいる。妹はどちらも背が低く、太っていて、弟は背が高く、やせている。ドロシーとキャロルの健康状態に大きな違いはないが、ドロシーは35歳で子宮摘出術を受けた。彼女によると、1990年代半ばにはそれが「流行」だったのだ。「その後、急に体重が増えだしたわ」とドロシーは言った。

 「体重に差があるのは、代謝が違うからだと思うの」とドロシー。どちらもアルコールはあまり飲まず、タバコも吸わない。キャロルの考えは違っていた。「たぶん、食べ物のアレルギーのちょっとした違いが、体重に大きく影響したのよ」。40代の頃、キャロルは、サセックスで民間療法を指導している栄養士のもとを訪れた。初期の更年期障害があり、また、体重が57キロから70キロに急増していたからだ。彼女の話を聞いて、栄養士は軽度のグルテン・ラクトース不耐症だと診断した。グルテンは小麦由来、ラクトースは乳製品由来である。血液検査の結果も診断と符合したそうだ。

 キャロルは、その1年前から別の食事療法と食事制限を試していたが、効果はなかった。しかし、今回は違った。「アドバイスされた通り、乳製品と小麦製品を一切とらないようにしたら、まもなく心も体も楽になって、体重のほうも60キロまで減って、それを維持できているわ」

 一方でドロシーは、同じことを試す必要を感じなかった。キャロルとドロシーの好物はライスプディングだが、キャロルは今では豆乳でそれを作っている。どちらも、食べ物の好き嫌いはほとんどなく、イカが食べられないくらいだ。どちらもかなり幸せで、生活に満足している。頻繁に会うわけではないが、1日おきに電話で話している。

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ティム・スペクター(Tim Spector) 

ロンドン大学キングス・カレッジの遺伝疫学教授で、ガイズ・アンド・セントトーマス病院の名誉顧問医を務める。同病院の双子児研究所の所長も務めており、1992年に英国で世界最大規模の双子研究(UK・ツイン・レジストリ)を立ち上げ、現在にいたるまで指揮している。この研究の対象となった双子は、11,000人を超える。これまでに500本以上の論文を発表し、数々の賞を受賞。また、英国並びに日本も含む世界各国のメディアが著者らの研究を取り上げており、著者自身も出演、及び監修を務めている。 著書に“Your Genes Unzipped: A Guide to How Your Genetic Inheritance Can Shape Your Life”(邦題:『99%は遺伝子でわかる!』(大和書房))がある。

 

 

野中香方子(のなか・きょうこ) 

(Tim Spector)翻訳家。お茶の水女子大学文教育学部卒業。 主な訳書に『エピジェネティクス 操られる遺伝子』『ザ・フォロワーシップ』(ともにダイヤモンド社)、『137億年の物語』『移行化石の発見』(ともに文藝春秋)、『2052 今後40年のグローバル予測』(日経BP社)、『わたしたちの体は寄生虫を欲している』(飛鳥新社)、『脳を鍛えるには運動しかない!』NHK出版)、『ヒトゲノムを解読した男』『生き物たちは3/4が好き』(ともに化学同人)などがある。

 

 


双子の遺伝子――「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける

同じ遺伝子を有し、自然界のクローンとも言われる「双子」。
だが、これまでに出会った双子を思い返してみると、
不思議なことに気づかないだろうか?

「果たして双子は、『クローン』と呼べるほど『同じ』なんだろうか?」

体重差が27キロある双子、
一方だけが乳癌になった双子、
ゲイとストレートの双子……。
本連載に登場する、「同じ遺伝子を持ちながらまったく違う(Identically Different)双子」は、
遺伝子だけでは説明できない「何か」の存在を教えてくれる。

このような、遺伝子によらない遺伝の仕組みが、
いまや生物学・遺伝学だけではなく、
長寿や健康、ガン治療などの観点からも注目を集めている「エピジェネティクス」だ。
本連載は、「同じなのに違う」双子の数奇な運命を通して、
遺伝学の最前線を紹介する。

「双子の遺伝子――「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける」

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