「肥満遺伝子」は脳の中に

 キャロルとドロシーのように、体重差の大きい一卵性双生児を見つけるのは難しいが、稀な病気や症候群を調べる時と同じく、あるメカニズムを理解するには例外的な存在のほうが役に立つものだ。

 双子と家族に関する複数の研究から、体重、BMI、体脂肪率のどれで見ても、肥満はしっかり遺伝することがわかっている。推定される遺伝率は60パーセントから70パーセントだ。一卵性双生児のほとんどは、体重の差が数キロ以内で、それは年をとっても変わらなかった。

 世界で最も重い双子は、ギネスブックによれば、ノースカロライナ州のビリーとベニーのマッケアリー兄弟(マグァイアという外国風の芸名を使っていた)である。初めはレスラーだったが、後にカーニバルでオートバイの曲乗りをするようになった。どちらも体重はおよそ330キロあった。重くなるにつれて、バスを飛び越えるのが難しくなり、ビリーは31歳の時にオートバイ事故で死んだ。驚いたことにベニーはその後21年も生き、心疾患で死んだ。

 わたしたちも協働する世界規模の研究グループによって、これまでに、脂肪を調整する遺伝子が30個以上発見された。被験者の数は莫大で、最近の研究では、25万人のDNAを調べた。そうした遺伝子の発見を受けて、当初メディアは、幼児期にDNAを調べれば肥満体質かどうかがわかる、と騒ぎたてたが、やがてこれらの遺伝子の個々の影響はごくわずかであることがわかった。

 ある肥満遺伝子を持っていても、肥満になるリスクは平均で5~10パーセント高くなるだけで、2個以上持っていても、その人が肥満するかどうかを正確に予測することはできないのだ。体重の個人差のうち、遺伝子で説明できるのはほんの数パーセントにすぎなかった。しかしこれらの研究により、肥満の生態学について多くのことがわかった。

 以前は、肥満をもたらす遺伝要因として、代謝率や脂肪の型の違いが重要だと考えられていた。しかし今では、より重要なのは脳だということがわかっている。

 最初に見つかったFTOは最も強力な肥満遺伝子で、脳、特に視床下部の報酬中枢で発現する。FTO遺伝子の変異をふたつ持つ人は、肥満になる可能性が最大70パーセントも増える。ラットの実験や人間の観察によると、FTO遺伝子の変異を持つと、食べ物の嗜好が変わるようだ。それが摂取したカロリーや脂肪の量に影響し、ひいてはオキシトシン、つまり抱擁ホルモンの放出を導く。また、わたしたちが発見を助けたアミラーゼ遺伝子の異型は、デンプンや脂肪分の多い食品への欲求を劇的に高めることにより、肥満を導く。

 これまでに見つかった30個以上の肥満と関係のある遺伝子のほとんどは、代謝が起きる脂肪や腸や肝臓ではなく、主に脳内で発現する。もっとも、肥満遺伝子を持っていても、打つ手がないわけではない。体をよく動かせば、FTOなどの遺伝子のスイッチをエピジェネティックにオフにして、その影響を30パーセント以上減らすことができるのだ。過食は、視床下部の報酬中枢が欲張りなせいなのか、それとも満腹感を覚えにくいたちなのかわからないが、いずれにせよ主に、脳に問題がある。だが、わたしたち、あるいはわたしたちの遺伝子は、どのくらい食べるかをどうやって決めているのだろう。