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アダム・スミス 人間の本質
【第4回】 2014年12月3日
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小川仁志

相手に完璧な同感を求めなければ
人間関係も社会全体もうまくいく

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人が互いに同感を求め合うメカニズムについて、前回まで述べてきました。では、その求め合う同感の程度とはいったい、どのようなものでしょうか。わかり合える度合いについて齟齬がなければ、人間関係はスムーズに進みそうです。それに関するスミスの知恵とは…?

 同感のメカニズムがわかったところで、問題は、どういう言動がよく思われるか判断する際の基準です。つまり、自分の主観を基準にしていていいのかどうかです。その判断が独りよがりになっていることも考えられます。スミスも、「ときどきわれわれは、他人にたいして、かれ自身がもつことはまったく不可能だと思われる情念を感じる」(スミス上P31)といっています。それはあくまで想像が他者の心の中ではなく、ほかでもない自分の中で勝手に生じているものだからです。

 そうだとすると、いくら自分ではいいと思っていても、人から見ればおかしな行動になっていることだってありうるわけです。おせっかいというのは、ここから生じるのかもしれません。相手はこれを求めてるだろうと勝手に想像して、行きすぎた行動をとってしまう。挙句、相手からは迷惑がられるというケースです。

 はたして、自分と他者の感覚が同じになることはあり得るのでしょうか。これについてスミスは、次の二つのパターンを挙げて説明しています。

われわれは他人の諸感情の適宜性と不適宜性を、それらがつぎのふたつのちがったばあいにわれわれ自身の諸感情に対応するか一致しないかによって、判定していい。第一に、それらをかきたてる諸対象が、われわれ自身にも、われわれがその諸感情を判定する人物にも、なにも特別な関係なしに考察されたばあいか、あるいは第二に、それらの対象が、われわれのうちの一方か他方に、特別に作用しているものとして考察されたばあいである。(スミス上P50)

 第1のパターンは、いわば自分と他者のいずれにも苦しみが生じていない場合です。共に同じ景色を見ているだけのときのように。この場合、両者は同じ観点から物事を見ているのであって、「感情と意向の完全な調和」を生み出すことができます。だから同感や同感が生じる想像上の境遇の交換を必要としないというのです。

 これに対して第2のパターンは、自分か他者のいずれかに苦しみが生じている場合です。たとえば自分にだけ苦しみがあれば、自分がその苦しみについて考察するのとまったく同じ観点で他者はそれを見ることはできません。

 しかしそれでも、ある程度の調和を求めることは可能です。ここがスミスの議論のポイントです。彼はいいます。「しかしながら、このふたつの感情はあきらかに、社会の調和に十分なだけの相互の対応を、もつことができるのである。それらはけっして同音(ユニゾン)ではないだろうが、協和音(コンコード)ではありうるのであって、このことが、必要とされ要求されるすべてなのである」(スミス上P58)と。

 同音ではない協和音さえ生み出すことができれば、同感によって社会の秩序を保つことができるのです。他人の苦しみを完全に理解することは無理でも、こんなことをしたら、相手はこう感じるだろうということは、一応わかるのです。そしてそれがわかれば、相手の嫌がる行為は差し控えるでしょうし、逆に相手の好む行為を行うようになるでしょう。それが社会秩序を形成することにつながるわけです。

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小川仁志(おがわ・ひとし)

哲学者。徳山工業高等専門学校准教授。1970年京都府生まれ。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。米プリンストン大学客員研究員(2011年度)。商社マン、フリーター、公務員を経た異色の哲学者として、商店街で「哲学カフェ」を主宰するなど市民のための哲学を実践している。『人生が変わる哲学の教室』(中経出版)、『7日間で突然頭がよくなる本』(PHP研究所)、『ピカソ思考』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。


アダム・スミス 人間の本質

 

『国富論』で知られ、“経済学の祖”といわれるアダム・スミス。彼のもうひとつの著書『道徳感情論』では、経済・社会の構成員である人間の本質を掘り下げて分析されている。そこから、21世紀の資本主義社会を快適に生き抜くための知恵を学ぼう。

「アダム・スミス 人間の本質」

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