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アダム・スミス 人間の本質
【第2回】 2014年12月1日
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小川仁志

人間にとって大事なものは何か?
アダム・スミスの「同感」概念がもつ新規性

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アダム・スミスが『道徳感情論』のなかで強調するテーマのひとつに「同感(sympathy)」があります。人間が他人の経験や感情に思いを寄せるのは当たり前のことのようにも思えますが、スミスの目の付け所のどこに新規性があったのでしょうか。

人間は利己的か、利他的か?

 自分のことは自分が一番よく知っているなどと言いますが、はたして本当でしょうか? 私は人間ですが、人間の存在については分からないことだらけです。どうして悲しくなるのか、どうしてこんな行動をとってしまうのか。それがわかっていれば、後悔する回数ももっと減るのでしょう。人間にとっての物事の本質を探究する哲学という営みは、ある意味で、人間の存在の意味を問うことを目的としています。謎だから問い続けるのです。

 なかでも、人間が利己的なのかそうでないのかについては、永遠の難問であるといえます。皆さんは自分が利己的だと思いますか、それとも利他的だと思いますか?

 二者択一だと、なかなか難しいですよね。ときに人はすごく利己的な行動をとるにもかかわらず、また別のときには自分を犠牲にしてでも他人を助けようとしたりします。人間はもともと善なのか悪なのかという性善説と性悪説の争いではないですが、利己的なのか利他的なのかという問題にもまた、神学論争並みの対立があるといえます。

 はたして人間は利己的な存在といえるのかどうか。この問いに対して、アダム・スミスは『道徳感情論』の冒頭第一部第一篇で、次のように答えています。

人間がどんなに利己的なものと想定されうるにしても、明らかにかれの本性のなかには、いくつかの原理があって、それらは、かれに他の人びとの運不運に関心をもたせ、かれらの幸福を、それを見るという快楽のほかにはなにも、かれはそれからひきださないのに、かれにとって必要なものとするのである。この種類に属するのは、哀れみまたは同情であって、それは、われわれが他の人びとの悲惨を見たり、たいへんいきいきと心にえがかせられたりするときに、それにたいして感じる情動である。われわれがしばしば、他の人びとの悲しみから、悲しみをひきだすということは、それを証明するのになにも例をあげる必要がないほど、明白である。(スミス上P23)

 つまり、人間は決して利己的存在ではなく、他人の状況についても感情を抱くことができるのです。たとえば、かわいそうな人を見たら同情するように。しかもスミスは、これについて証明する必要がないほど当たり前のことだといってのけます。

 私たちが他人の状況にも感情を抱けるのは、想像力が作用するからでしょう。想像力は人間が当然持ち備えている能力の一つですから、証明する必要はないということになるのかもしれません。では、この場合、想像力はどのように働くのか?

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小川仁志(おがわ・ひとし)

哲学者。徳山工業高等専門学校准教授。1970年京都府生まれ。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。米プリンストン大学客員研究員(2011年度)。商社マン、フリーター、公務員を経た異色の哲学者として、商店街で「哲学カフェ」を主宰するなど市民のための哲学を実践している。『人生が変わる哲学の教室』(中経出版)、『7日間で突然頭がよくなる本』(PHP研究所)、『ピカソ思考』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。


アダム・スミス 人間の本質

 

『国富論』で知られ、“経済学の祖”といわれるアダム・スミス。彼のもうひとつの著書『道徳感情論』では、経済・社会の構成員である人間の本質を掘り下げて分析されている。そこから、21世紀の資本主義社会を快適に生き抜くための知恵を学ぼう。

「アダム・スミス 人間の本質」

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