粉飾決算や新旧経営幹部の権力争いなど、日本の伝統的な企業で、経営が行き詰った時に経営者による株主を軽視する行動がたびたび指摘される。これは日本だけの特殊な問題なのか。アジアや欧米企業に課題はないのか。コーポレートガバナンス研究の第一人者であるコリン・メイヤー氏は、各国の企業それぞれに、歴史的・構造的な問題を抱えていると指摘する。(聞き手/大野和基)

日本と欧米の経営の違いを鮮明に見せた
オリンパス粉飾事件

オリンパス粉飾事件の本質は <br />経営者が「最後まで守ろうとしたもの」にある<br />――企業統治研究の第一人者、コリン・メイヤー氏に聞くコリン・メイヤー(Colin Mayer)
オックスフォード大学ザイード経営大学院ピーター・ムーア経営学教授。オックスフォード大学卒、同大学経済学博士。ロンドンシティ大学教授等を経て、1994年より現職。2006~11年には、同経営大学院学院長を務めた。同大学ワダムカレッジフェロー、セントアンズカレッジ名誉フェロー。ヨーロッパ経済政策研究センター(CEPR)、ヨーロッパ・コーポレートガバナンス研究所(ECGI)フェローなどを歴任 Photo by Kazumoto Ohno

――あなたの著書である『ファーム・コミットメント―信頼できる株式会社を作る』(NTT出版)を読むと、真っ先に「企業は誰のために存在するのか」という基本的な疑問にぶつかります。我々の多くは企業は株主のためにあり、それゆえに株主価値を最大限にしなければならないと思い込んでいます。それはあなたからみて、筋が通っていますか?

コリン・メイヤー氏(以下・メイヤー) いいえ、それは私の見方ではありません。筋が通っていないというのが私の見方です。我々は企業が社会や顧客に与える恩恵の観点から、企業の目的を真剣に考えなければなりません。

 企業の目的は、ただ単に利益を最大にするということではありません。生産目的は、社会と顧客にとってもっと広い恩恵になるものでなくてはなりません。利益はそういう目的が達成され、人が必要とするものを届けることがうまくいくことで、派生するものです。

――私はオリンパス元CEOのマイケル・ウッドフォード氏にインタビューしたことがありますが、彼はオリンパスにひどい扱われ方をしたことで怒りまくっていました。このオリンパス事件は、外部の株主の投票権を含む企業文化における日本と欧米の違いを表していると思いますが、どう感じていますか。

メイヤー ウッドフォード氏は、企業内で深刻な過ちを見つけたときに、外部の投資家が支配力を行使できなかったことで非常にフラストレーションを覚えました。オリンパスが昔からの株主によって支配されていることがわかったのです。その結果、ウッドフォード氏が旧経営陣の刷新を訴えたときに、昔からの株主は一斉に旧経営陣を擁護しました。

 確かにオリンパス事件は、欧米と日本における企業がとるアプローチの違いを非常によく表していると思います。純粋に株主価値を最大限にするという考えは、日本人の考え方からはかけ離れています。彼らは、基本的に企業は従業員を含める、大きなグループに利益をもたらすために存在すると考えています。そして従業員は企業の中で著しい利害関係を持っています。