不確実性の高まりを背景に、日本企業は変革を求められており、経営層には従来にない発想での舵取りが必要になっている。そうした問題意識の下、2025年7月23日にダイヤモンドクォータリー エグゼクティブ・ラウンドテーブル「ダイナミックな成長に向けて自社の強みをどう再編集するか」(PwC Japanグループ共催)が開催された。
本ラウンドテーブルは、全4回開催されるシリーズの第1回。2つの基調講演では、京都先端科学大学教授の名和高司氏が、日本企業が成長のダイナミズムを取り戻すための道筋を解説。また、ダイキン工業執行役員の植田博昭氏は、M&Aの活用によって「空調で世界一」を実現した急成長の軌跡を振り返った。本稿では、両氏の講演と併せて、その後に聴講者を交えて行われた全体ディスカッションの内容をリポートする。
「守破離」でとらえる
シン日本流経営の本質
世界最大の世論調査会社が毎年発表する「国家ブランド指数」において、日本は2023年に初めて60カ国中1位に選ばれた。「製品の信頼度」、そして「他のどの場所とも異なる」という稀少性が高く評価されての首位獲得である。
日本の独自性が「ガラパゴス」と否定的に語られた時期もあったが、「失われた30年」を経た現在、日本固有の特性や価値観が世界によって「再発見」されている。こうした潮流を踏まえ、京都先端科学大学教授の名和高司氏は「私たち自身がもっと日本の価値を発信すべきではないか」と問いかける。
日本には古来「守破離」という進化の流儀がある。茶道の心得として千利休が説いて以後、武道や芸道における修業の過程を示す言葉として使われてきた。

名和高司 氏
Takashi Nawa 東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。 三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、 コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール 客員教授、2021年より京都 先端科学大学 教授。ファーストリテイリング、味の素などの社外取締役を歴任。企業およ び経営者のシニアアドバイザーも務める。
名和氏は、この守破離になぞらえ、昭和を支えた日本流の経営を「守」、世界標準とされる欧米の経営理論を「破」ととらえる。そして日本が再び成長軌道を描くための道筋として、従来の日本流の経営を「シン日本流経営」へと「進化(=離)」させることを提唱する。
「従来の日本流にもよさはありましたが、それだけでは通用しないことに気づいた日本企業は平成以降、欧米流に傾斜していきました。しかしそれは、中身を変えることなく、外側だけを整えた“コスプレ病”でしかなかった。舶来病にかかった日本企業は、日本的な価値を生み出すことができず、競争力を失っていきました。
ならば、日本流と欧米流それぞれのよさを掛け算してはどうか。和魂漢才、和魂洋才という言葉があるように、異なるもの同士を結合させるのは日本人のお家芸。これによって『離』を実現しようというのが、シン日本流経営の根本的な考え方です」(名和氏)
シン日本流経営を実現するステップの一つとして、名和氏は「資産の入れ替え」を挙げる。
会社の資産は、有形資産(物的資産、金融資産)と無形資産(顧客資産、人財資産、組織資産)に大別される。ここでいう「資産の入れ替え」とは、無形資産を「将来価値」ととらえ、深化させていくこと。先に無形資産の価値を高め、そのうえで委託生産へ切り替えるなどして有形資産を減らし、貸借対照表(BS)をスリム化していくことを意味する。
「無形資産の中でも、最も重要なのは『組織資産』です。『組織資産』は、パーパスやカルチャーといった『ソフト』、アルゴリズムや仕組みなどの『ハード』、そして『人財』の3つの要素の掛け算で表せます。最近は人的資本経営を掲げる企業が増えていますが、優秀な人財を抱えているだけでは十分ではありません。しっかりとソフトとハードを構築し、人の能力を10倍に高められる環境を整えていなければ、会社として生き残れません」