外資系のファイナンス部門は、海外本部との連携が強く、CFOは意思決定に重要な役割を持つ。片や日本企業のCFOはどうか。外資系CFOの経験に国際競争力を回復するヒントを、外資系のファイナンスで15年以上の経歴を持つエクスペリアン・ジャパンの郡家孝之CFOに聞いた。
CFOは企業経営にどんな貢献をしているか?
日本企業と外資系企業の経営の大きな違いは何でしょうか。
もちろんいろいろあるでしょうが、CFOの立場から見て、その筆頭は財務数値へのこだわりにあると申し上げたい。その理由は、ご存じのように欧米企業の多くが株主重視の傾向にあるためです。
エクスペリアン・ジャパン
チーフ・ファイナンシャル・オフィサー
米国公認会計士
1971年長崎県五島市生まれ。米国カンザス州ウィチタ州立大学卒業後、日本IBMにシステムエンジニアとして入社。その後、IBMアジア・パシフィックの財務計画チームのアナリスト経験を経て、大型アウトソーシング案件の分析にて実績を残す。アクセンチュアに転職し、マネージャとして財務分析において腕を振るった後、モトローラ・モビリティ・ジャパンにてファイナンシャル・コントローラーとして就業。その後、ファッション雑誌VOGUE Japanで知られるコンデナスト・ジャパンでファイナンス・ディレクターを務めた後、現職に至る。GAISHIKEI LEADERSのオーガナイザーとしても活躍する。
従って、CFOのミッションも「株主に対する財務的リターンの最大化」であることが一般的です。株主重視の経営は、短期的な利益やその他財務数値を優先してしまい、長期的視野を軽視しがちになるという弊害もありますが、私は財務数値重視の経営は競争力向上のために非常に有効だと考えています。
グローバル企業ではファクト・ベース(事実に基づく)という言葉が頻繁に使われます。意思決定は経営者の勘や経験ではなく、事実、つまり数字や分析の結果をベースに行われます。これを支援するのがCFOです。言い換えれば、CFOの役割は、専門的な知識と分析に基づいて、会社の意思決定を支援することです。
日本企業のファイナンス組織(経理部、財務部など)のトップは、経理部長あるいは財務部長でしょうが、グローバル企業ではCFOが一般的です(小規模な企業ではファイナンス・ディレクターというケースもあります)。
CFOは一般的に二つの組織に責任を持ちます。コントローラーシップ(財務会計部門、経理)とビジネス・ファイナンス(あるいはファイナンシャル・プラ ンニング・アンド・アナリシス)です。規模が大きい会社であれば、他にも財務(資金調達などを行う部門)、税務、購買、内部監査などさまざまな組織があるでしょう。グローバル企業では、ファイナンスの専門家集団が経営戦略の意思決定支援を行います。
一方、日本企業では、経理部は必ずありますが、ビジネス・ファイナンスの機能は、多くの場合、経営企画室にあるようです。かつて営業部門が担当する例を見た時は心底驚いたものです。
私がグローバルIT企業で大型アウトソーシング案件の財務分析をしていたころ、日本企業でアウトソーシング営業を担当する友人と話をする機会がありました。彼の会社でも財務分析をしていましたが、なんと営業の彼が財務モデルを使って予想P&L、キャッシュフローなどを作成しているというのです。
専門書などを参照して何とかまとめた財務諸表を、これまたチェックの仕方がわからない営業部長へ提出して承認してもらい、それをクライアントへ見せていると聞いて驚愕しました。その会社は、IT業界では名の知られた有名企業です。私が所属していたようなファイナンス部隊があればいのにと、その友人がつぶやいたのが印象的でした。