一般消費者にはほとんど知られていないが、不動産業界には「物件の囲い込み」という問題が広くはびこっている。消費者の利益を毀損しかねない行為であるにもかかわらず、長年に渡り、業界も行政も効果的な対応はほとんど行っていない。その実態について、ネクストの井上高志社長に聞いた。

いのうえ・たかし/1968年11月生まれ。神奈川県横浜市出身。91年青山学院大学経済学部卒業後、同年リクルートコスモス(現コスモスイニシア)へ入社、分譲マンション販売や流通物件仲介を担当。そのわずか3カ月後にはリクルート総合人材事業部へ転籍。主に新卒採用、中途採用、人材サービスの法人営業に従事する。95年にリクルートを退社し、ネクストの前身となるネクストホームを創業。97年にネクストを設立し、代表取締役社長に就任(現任)。2014年国際事業部長に就任(現任)。不動産は人生最大の買い物であるにもかかわらず、購入者側は限られた情報しか得られないという現状を問題視。不動産業界の在り方を変えたいという熱い想いで立ち上げた不動産・住宅情報サイト『HOME'S』は、総掲載物件数で国内最大級のサイトに成長。Photo by Kazutoshi Sumitomo

――物件の囲い込みとは、どういうものなのでしょうか。

 文字通り、不動産会社が手にした物件の情報を、他社に渡さず、抱え込んでしまうことです。

 例えば、不動産会社A社が、売主から物件売却の仲介を依頼されたとします。一方で、不動産会社B社には、その物件を買いたいという顧客がいたとします。

 そこでB社はA社に連絡し、物件を買いたい客がいると伝えます。ところがA社は「すでに売れてしまった」などと偽って、物件を渡さないのです。A社の狙いは、自社が抱える売主と買主をマッチングさせる「両手取引」を行い、双方から手数料を稼ぐことにあるのです。

 結局、割を食うのは、A社に売却仲介を依頼した顧客です。B社が抱える顧客に対して高く売れたはずなのに、A社が抱える買い手に売ったことでより安い金額しか手にすることができないということも起きるのです。

 大半の顧客は、まさか不動産会社が裏でそんなことをしているとは知る由もありません。会社によっては、他社に紹介して片手取引となってしまうと社内で始末書を書かされるところもあると聞きます。どれほど顧客を軽視しているのかと呆れるばかりです。