累計58万部を突破し、2014年最大の話題作となった『嫌われる勇気』。前編では、この時代にアドラーが受け入れられた理由や、岸見氏・古賀氏がアドラーの思想に出会った経緯などについて語ってもらった。後編では、ビジネスパーソンにとってのアドラー心理学について、議論が進んでいく。(聞き手:柿内芳文)

企業はアドラーに
なにを求める?

──『嫌われる勇気』が世に出てからの1年間、講演会や取材の機会も多かったと思うのですが、特に印象的な変化などはありましたか?

岸見 この本の刊行前と後では、企業からの講演依頼が急増したことが、最大の変化だと思います。

われわれは承認欲求から<br />逃れられるのか?古賀史健(こが・ふみたけ)
ライター/編集者。1973年福岡生まれ。1998年出版社勤務を経てフリーに。これまでに80冊以上の書籍で構成・ライティングを担当し、数多くのベストセラーを手掛ける。臨場感とリズム感あふれるインタビュー原稿にも定評があり、インタビュー集『16歳の教科書』シリーズは累計70万部を突破。20代の終わりに『アドラー心理学入門』(岸見一郎著)に大きな感銘を受け、10年越しで『嫌われる勇気』の企画を実現。単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』がある。

古賀 いま企業の方々はアドラー心理学になにを求めているのでしょう?

岸見 やはり対人関係ですね。たとえば「若い社員との接し方がわからない」「最近の若手は、少し怒るとすぐに会社を休むようになる」「かといって、甘い顔をしていると図に乗ってくる」といった相談はよく受けます。

古賀 どちらかというと管理職の方が困っている感じなのでしょうか。

岸見 管理職も若手社員も、対人関係に悩んでいるという意味では同じでしょう。アドラー心理学の特徴のひとつとして「話す相手を区別しない」という側面があります。これは管理職向けの話、こっちは新入社員向けの話、あれは経営者向けの話、といった区別がなにもないのです。誰に対しても、同じように同じことを話します。もちろん、事例などはその場に応じて使い分けますが。

古賀 よくある「リーダーのための人心掌握術」みたいなものは、アドラー心理学の対極にある考え方ですよね。

岸見 はい。アドラー心理学は、他者を変えるための心理学ではないし、ましてや他者を操作するための心理学ではない。変わることができるのは、自分だけです。

古賀 だからこそ、経営者にも新入社員にも同じ話をする。

岸見 これは、アドラーのいう「横の関係」ともつながる話です。