「自動ブレーキ」が普及すれば損保業界が儲かる自動ブレーキが普及すれば、損害保険会社が儲かる――そのカラクリは?

昨年10月に、国土交通省がいわゆる「ぶつからない車」の性能評価を公表して、大きな話題となった。世界最大の自動車メーカー・トヨタ自動車も、2017年までに日本・北米・欧州向けのほぼすべての車種に、自動ブレーキなど安全運転支援システムを装備すると発表している。

いまや安全運転支援装置の有無が、自動車選びの大きなポイントとなり、メーカー各社は開発にしのぎを削っているが、その普及で思わぬ恩恵を受けそうな業界がある。それが自動車保険を扱う損害保険業界だ。

自動車保険の利益率が高まる

 メリルリンチ日本証券アナリスト・佐々木太氏によれば、自動車の安全運転支援システムが普及すれば、自動車保険の利益率が高まる可能性があるという。それはなぜか。

 日本の場合、自動車保険の保険料率(保険金額に対する支払い保険料の割合)は、「損害保険料算出機構」が「参考純率」を算出し、ほとんどの保険会社がこの参考純率を純保険料率として利用して保険料を決めている。ちなみに、我々が支払う保険料の料率は保険金の支払いに充てられる「純保険料率」と保険会社の経費に充てられる「付加保険料率」から構成されているが、この純保険料率を決める参考となるものが参考純率である。

 参考純率は、損害保険料算出機構が保険会社から提供される契約データ、支払データ、損害調査に関するデータを基に、将来の「事故の発生する確率」と「1事故あたりの平均損害額」を予測して算出される。とすれば、安全運転支援システムが普及して交通事故が発生する確率が下がれば、自動車保険の保険料率が下がり保険料が安くなっていいように思える。

 実際、米国で自動車の安全性を評価するHLDIの調査によれば、安全運転支援システムを装備した車の事故率は、装備していないそれに比べて、明らかに低いという結果が出ている。

 ところがである。現在、日本の交通事故のデータは、自動車の形式で管理しており、どのような装置を装備しているかというデータは存在しない。そうしたデータを整備しようという動きはあるものの、参考純率に反映させるほどデータが蓄積されるには、時間がかかる。これまでのケースでは参考純率は3~4年に一度変更されてきており、もしいまからそうした事故データを集めても、最低でも3~4年はかかるということになる。