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めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編

大学生シュンペーターの最初の「履修科目」は?

坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]
【第11回】 2008年3月5日
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 前回、シュンペーターは1901年に「ウィーン大学法・国家学部」に入学した、と書いたが、このナカグロ(・)は正しくなかった。ドイツ語の正しい大学学部表記は、Rechts- und staatswissenschaftliche Fakultät der k.k.Universität Wien となる。発音は、レヒツ・ウント・シュターツヴィッセンシャフトリッヒェ・ファクルテート・デア・カー・カー・ウニフェアジテート・ウィーン。完全に発音に忠実なカタカナ表記ではないけれど、だいたいこのようになる。k.k.は二重帝国のこと。したがって、二重帝国立(帝室)ウィーン大学法-国家学部、これが正式な表記である。

 レヒツの後になぜハイフンが入るのだろう(Rechts-)。いろいろ調べたが分かりませんでした。レヒツは権利、法、正義といった意味で、英語ではrightに当たるが、同じ意味ではない。ドイツ語特有の言葉だ。シュターツは国家、ヴィッセンシャフトは学問だから、国家学、と訳されている。

 シュンペーターが入学してから履修した講義については、京都大学経済学部教授の八木紀一郎先生が1993年に発表した論文「シュンペーターとヴィーン大学」(注1)で詳細を明らかにされている。八木先生が学部表記を「法-国家学部」としているので、これに従うことにする。

 国家学とは、現代の私たちにはなじみのない学問である。図書館で「国家学」に関する書物を検索すると何冊か出てくるが、いちばん新しい出版物にヘーゲルの『自然法と国家学講義――ハイデルベルク大学1817・18年』(神山伸弘訳、法政大学出版局)があった。2007年12月の出版だ。本書は、『自然法および国家学に関する講義 : 1817/18冬学期講義、ハイデルベルク』(晃洋書房, 2002)として出版されている書物と同じもので、新訳である。

シュンペーターが学んだ国家学部は、
現代でいうと政経学部?

 本書はヘーゲルの講義を当時の学生がまとめたノートによるものだそうだ。「自然法と国家学」の原題は、Naturrecht und Staatswissenschaft というもので、まさにウィーン大学の学部名に近い。するとヘーゲルがこのジャンルの起源なのだろうか。

 いや、まったく違いました。ヘーゲルがハイデルベルク大学の正教授として赴任したのが1816年10月で、そのときすでに存在した「自然法と国家学」という講座を引き継いだだけなのだそうだから、ドイツ語圏(ドイツの各領邦、ハプスブルク帝国)の大学ではよくある講座名、あるいは学部名だったのかもしれない。

 それにしても「法-国家学部」の由来がわからないなあ、と西洋史にめっぽうくわしい友人に相談したところ、ひとつの論文を紹介してくれた。

 その論文は「前期シュタインの国家学における国際関係理論と自治理論」と題されたもので、東洋大学社会学部教授(社会思想史)の柴田隆行先生によるものだった(注2)。

 柴田先生はシュタイン(注3)の著書を引用して、こう書いている。「国家学に属する分野を挙げれば、そこには統計学、国民経済学、財政学、広義の警察学(行政学)、政治学、そして国家学百科が入るので、これらを数え合わせてドイツの大学の現状を調査すると、独自の国家学部があるのはテュービンゲン、ヴュルツブルク、ミュンヒェン大学の3大学のみで、その他はみな哲学部に属する」。「ウィーン大学やプラハ大学も含めて24大学の科目とその担当者の一覧表を(シュタインが)つくっている」と。シュタインの調査は1852年によるものだそうだ。

 詳細はなんともわからないが、ドイツ語圏(チェコを含む)24大学では「国家学」という科目があり、3大学では独自の学部があることはわかった。ウィーン大学、プラハ大学にも19世紀半ばにはすでに「法-国家学部」があったのかもしれない。

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坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]

1954年生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、ダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集長などを経て現職。著書に『複雑系の選択』『めちゃくちゃわかるよ!経済学』(ダイヤモンド社)『浦安図書館を支える人びと』(日本図書館協会)など。


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「経済成長の起動力は企業家によるイノベーションにある」とする独創的な理論を構築したシュンペーターの発想の冒険行を、100年前のウィーンから辿る知の旅行記。

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